活動状況
第29回情報通信学会大会
第29回学会大会開催要領
開催日: 2012年 6月23日(土)、24日(日)
場 所: 国際教養大学(秋田県秋田市雄和椿川字奥椿岱)
第29回学会大会は6月23日、24日の2日簡、秋田の国際教養大学において開催されました。36件の個人研究発表と8件の研究会報告が行われました。また、シンポジウム「モバイルビジネスの未来」、ワークショップ「ブロードバンド政策」を国際教養大学の協力の下、韓国の情報通信政策学会(KATP)と合同で開催しました。
シンポジウム「モバイルビジネスの未来」
基調講演
辻村 清行 (NTTドコモ 代表取締役副社長)*
Hyunghee Lee(Senior Executive Vice President of SK Telecom)
パネル・ディスカッション
モデレーター 神野 新 (㈱情報通信総合研究所 主席研究員)
パネリスト
辻村 清行 (NTTドコモ 代表取締役副社長)*
牧 俊夫 (KDDI 執行役員 事業統括部担当)
松本 徹三 (ソフトバンクモバイル 取締役特別顧問)
Hyunghee Lee (Senior Executive Vice President of SK Telecom)
Heesu Kim (Vice president of KT)
Hyungil Park (Vice president of LG U+)
(*辻村氏は6月15日付けで、ドコモエンジニアリング株式会社代表取締役社長に就任)
<シンポジウム報告>
「モバイル・エコシステムの解釈で際立った違いをみせた日韓のモバイル事業者 -Kakao(カカオ)に揺れる韓国、LINE(ライン)との提携が話題の日本 」
1.日韓の主要モバイル事業者が秋田で業界の未来を議論
日本、韓国の主要なモバイル事業者(以下、MNO: Mobile Network Operator)の幹部が一堂に会して、モバイルビジネスの未来を議論するシンポジウムが開催された。両国の上位各3社のMNOの役員級のキーパーソンが勢ぞろいし、業界展望を語りあったのは恐らく初めてのことであり、内容的にも両国のモバイル・エコシステムに対する見方の違いが鮮明になるなど、興味深いイベントであった。
2.共有されたトラヒック爆発とネットワーク投資増大の危機感
シンポジウムでは、各社のプレゼンに引き続き、「モバイル・エコシステムの確立に向けたコーオペレーション」というサブテーマのもと、会場からの質問も交えて、活発なパネル・ディスカッションが行われた。両国のMNOの主張は、「モバイル・トラヒックの爆発」が危機的であり、それに対処するネットワーク高度化投資が待ったなしである、という点で共通していた。トラヒック激増の理由は、スマートフォン、タブレット端末の普及拡大であり、それらを通じたOTT(Over-the-Top)と呼ばれるネット企業が提供する高容量サービスの利用増大であるとする点でも、日韓の見方は一致していた。
3.モバイル・エコシステムの解釈には日韓で大きな差
上述の課題に対する日韓の危機感は共通していたものの、「MNOとOTTプレイヤーが協業しなければ、モバイル・エコシステムは維持できないのではないか?」という問いかけに対する答えは、日韓で大きな温度差があった。一言でいえば、日本は両者の関係は友好的であり、今後もその拡大を目指すという立場だったのに対して、韓国は両者の関係は緊張状態にあり、現存する課題を解決しなければ協業は成立しないという姿勢を取っていた。
4.秋田にも持ち込まれた韓国の「Kakaoショック」
韓国では、新興ネット企業のKakao社が、モバイル向けのインスタント・メッセンジャー(MIM)サービスの開始から2年間で4,000万ユーザ(全モバイル顧客の70%以上)を獲得し、次なるキラーアプリとしてモバイルVoIPサービスの試験提供を開始したところである。業界首位のSKテレコムはプレゼン資料の中で、KakaoのMIMのために2年間で自社のSMSサービス利用が約三分の二にまで激減し、その売上高も大きく減少した事実を具体的に説明していた。このような、「Kakaoショック」とでも言うべき業界環境を背景に、韓国のMNOはエコシステムは生存競争空間であり、OTTを「Frenemy」のEnemyとみなす姿勢が、日本よりも相対的に強かった。
5.韓国は垂直統合されたサブ・エコシステムの激突を強調
モバイル産業全体が単一のエコシステムを形成するのではなく、その中で、MNOに加えてGoogle、Apple、Nokiaなどが、各々の垂直統合されたエコシステム(いわば、サブ・エコシステム)構築を志向している様子は、韓国のみならず日本のMNOのプレゼンでも指摘されていた。しかし、Kakao問題に揺れる韓国は、サブ・エコシステム同士の激突により、MNOのネットワーク高度化投資などが困難化しているという訴えを、より鮮明に打ち出していた。さらには、韓国のICTエコシステム内でパワーシフトが生じていると主張し、同国最大のネット企業のNHN(注:検索サイトNAVERの親会社。モバイルVoIPのLINEなどを提供)やサムスンが、MNOと比較して相対的に高い利益率をあげている事も指摘していた。日韓のMNOについて見ると、LTEを中心とする新技術やOTTライクなサービスの取り込みにより、一方ではネットワーク混雑を解消し、他方ではネットワーク(パイプ)をスマート化する戦略を取る点では一致していた。しかし、ここでも、置かれた環境の違いから、外部のOTTとの協業に楽観的な日本と、悲観的な韓国で立場が分かれていた。
6.日韓のMNOとKakao、LINEの関係が示唆すること
「エコシステム」という言葉は、往々にして理想論に棚上げされ、現実のビジネスの舞台では「総論賛成、各論反対」の堂々巡りに陥りがちである。今まで述べて来たように、秋田の議論でも、その点が垣間見られた次第である。今後、韓国がKakaoという各論をどうクリアしていくのか、また、日本が総論を各論に成功裏に具体化して行くことが出来るのか、大いに興味を持たせてくれるシンポジウムであった。
(シンポジウム報告文責:神野 新)
共催、協賛
共 催: Korea Association for Telecommunications Policies (KATP)
協 賛: 国際教養大学、情報通信月間推進協議会
シンポジウム協賛:NTTドコモ株式会社、KDDI株式会社、ソフトバンクモバイル株式会社、
SK telecom、KT、LG U+、KCC