活動状況

デジタル・エコシステム研究会

主 査 :  岡田朋之

幹 事 :  長谷川想、北村順生

研究会主旨: 

今日の社会がグローバルな諸課題(地球環境、格差、安全保障等々)にとり囲まれるなか、持続可能な発展を実現しうる社会の制度設計や政策立案に向けて、ICTの果たす役割について考える。くわえて関西地域が有史以来日本の政治や文化、産業の極としても大きな役割を果たし、また本学会の設立以後は情報通信研究の中核のひとつを担ってきた経緯を踏まえて、当地域の発展にICTがどう資するかも交えた議論の展開をめざす。

2018年度 第2回 デジタル・エコシステム研究会

日 時 : 

2019年3月26日(火)17:00~19:00

場 所 : 

関西大学梅田キャンパス 7階701室

       アクセスURL: http://www.kansai-u.ac.jp/umeda/access/

テーマ: 「radikoの進化とアーティストコモンズによる独自のメディアエコシステム形成の可能性」

報告者: 三浦文夫氏 (関西大学社会学部教授)
モデレーター: 長谷川想氏 (株式会社電通関西支社MCソリューション局)


報告内容: 関西大学の三浦でございます。自己紹介しますと、もともと広告代理店の電通で、営業を長く担当、この他、テレビやインターネットビジネスの担当をしておりました。本日はよろしくお願いいたします。
さて、メディアプラットフォームの構築にあたっては、まず最も大事なものはビジョンです。それを具現化するものとして、技術、権利処理、ビジネスモデルが重要と考えております。私が関わりましたRadikoについては、「ラジオを中心とした音の世界によって喚起される想像の世界を広げ、新しい文化、経済、コミュニケーションを育むオーディオ・プラットフォームを目指す」というものでした。また個人的には、「新しい音楽に出会う機会を創る」というものもありました。私個人の話をしますと、子供のころからラジオに接する機会も多く、ラジオそのものを自分で作る、そこからアマチュア無線などにも興味をもつようになったような背景も持っております。

 ところでラジオについては、特に2000年以降、ラジオ受信機の減少、都市部の高層建築などの影響からの受信状況の悪化、若者層のラジオ離れなど、厳しい環境にあることは事実です。そこで、ラジオ放送を、インターネットを通じて受信できれば、パソコンがラジオ受信機になり、リスナーの聴取機会も増え、都市部の難聴取対策にもなると考えました。結果的には、2005年、AM、FMとも雑音のないステレオ音声を楽しむことができるIPサイマルラジオプロジェクトを開始することにいたりました。

 2005年のプロジェクト開始にあたり、私自身にとって重要なイベントとして1995年11月のAPEC大阪会議があります。この会議を機に、ネットワーク技術、放送技術、コンテンツ、広告などの様々な関係者が集まり、サイバー関西プロジェクトが発足、IPサイマルラジオ配信の実験を行いました。振り返りますと、ここでの人脈や経験がその後非常に役に立ったと考えております。ところで、このプロジェクト発足後、各方面から「放送法に抵触するのではないか」「音楽やスポーツなどの権利者の許諾はとれないよ」「AMリスナーは、インターネットを通じてラジオは聴かない」などの多くの否定的な意見が多く寄せられました。

 2005年のプロジェット発足後、2007年7月にはIPラジオ研究協議会が発足し、大阪ラジオ6局と電通が参加、会長には大阪大学の宮原総長(当時)に就任いただきました。その後2008年4月に実験開始、radikoが誕生、開始当初の登録ユーザー数は、1,000人程度でした。2009年3月まで実験を行ったのですが、音が良いと評判で、継続聴取希望も比較的高く、AMラジオのユーザーが多い結果となりました。当時は、IPv6マルチキャスト方式を採用したため、NTTフレッツ光プレミアム+Windows Vistaなどの利用環境が必要となり利用者が限定されておりましたが、IPv4ユニキャスト方式に変更し、WindowsやMacなどのPCやスマートフォンにも対応するなど、アーキテクチャーを変更し幅広いユーザーの獲得に成功しました。

 この時点、冒頭申し上げたメディアプラットフォームとしてのありようとして、技術はIPv4ユニキャスト、権利処理はインタラクティブ配信のためすべて必要、ビジネスモデルとしてはすべて参加放送局負担というものでした。ところでIPサイマルラジオ放送の権利許諾について、主体が各放送局なのか、プラットフォーム(radiko)なのか明確ではありませんした。その対応にあたり、音楽関係はJASRACなどの団体により集中管理されていましたが、タレント、アーチティスト、広告、スポーツ、気象情報など様々なコンテンツについては、権利処理の取り扱いについて一元的に仕組化がされている状況ではありませんでしたが、実験実施に際しては慎重を期して丁寧に説明をしていく方針を取りました。

 その後、2010年3月から東京のラジオ8局と大阪ラジオ6局が試験配信を経て、2010年12月より本配信が開始され、同時に株式会社radikoが誕生しました。さらに、2014年4月には、エリアフリー(域外のラジオ放送を聴取できるサービス)を開始、月額350年を支払ったプレミアム会員が利用可能となりました。さらには2016年10月には、タイムフリー、シェアラジオの実証実験を開始いたしました。radikoにつきましては2019年3月現在、民放連加盟ラジオ局101局のうち93局が参加、またNHKも配信実験ののちに、2019年4月から正式参加となりました。一日当たりのアクティブユーザー数は約130万人、アプリのダウンロード数は累計3000万、プレミアム会員(月額350年)は、約58万人となりました。

 ところで、radikoに関するものだけではなく、ラジオそのものの価値を再発見する活動を私は行っております。2013年~2016年にかけて、民放連の「ラジオ再価値化研究グループ」の座長に就任し、「シェアラジオ」(タイムフリー)、「ハイブリッドラジオ」、「プログラマティックアド」、「共通音源システム」などに取り組んできました。

 「シェアラジオ」については、2016年10月から実験を行っていますが、対象の番組について、一定の期間、音源をそのままSNS上などでシェアできるものです。開始にあたっての権利処理では、当初のradiko以上に調整が必要な局面もありました。「ハイブリッドラジオ」は、「ラジスマ」という名称で、2019年3月6日にリリースを行いましたが、電波経由とインターネット経由の双方で、ラジオ放送を聴取可能なものとなっております。電池やパケットの消費の観点から、災害時などで有効なものとなると考えております。「プログラマティックアド」については、DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を活用し、聴取するユーザーによって同じ時間帯の放送でも、広告を聴取者によって出しわけるというものになります。現在実証実験中となりますが、マス広告のブランディング効果とインターネット広告の効率的なレスポンス獲得効果の良いところを組み合わせて、ブラッシュアップしていく計画です。最後の「共通音源システム」については、ラジオ放送局のインフラに関する設備投資をできるだけ共有、共通化し、設備投資が経営に与える影響を軽減するというものです。Radikoについては様々な外部のデバイスやシステムと連携をしつつあり、Alexaのスマートスピーカーでの聴取も非常に人気も高く、また5Gを活用し、車載デバイスとの連携もより具体的に検討されつつあります。

 さて、冒頭申し上げましたが、ラジオの価値として新しい音楽に出会うというものを私は大事にしてきました。例えばラジオ番組で気に入った音楽に出会ったら、音源の購入、ライブやコンサートの情報取得やチケットの購入などができる、そういった音楽マーケット拡大のエコシステムへの展望を持ち始めました。それに際しては、メタデータの整備が重要と考えております。番組IDに関してはradikoで策定中、アーティストに関しては主な音楽権利者団体と共同で、アーティストID(ACID)を共同で作成中、さらに楽曲IDについてはISRCなどが活用できると考えております。

 さて、アーティストに関して、その才能と魅力を広く知らしめ、その付加価値を最大化することにより、エンタテインメント産業文化振興とその継承・保全への貢献を目的として「アーティストコモンズ」実証連絡会を2014年10月設立いたしました。代表は、中井猛スペースシャワーネットワーク相談役、私は慶大中村伊知哉教授とともに幹事に就任し、各音楽権利者団体などが参加いたしました。アーティストコモンズの基本的な事業は、一意に識別可能なアーティストID(AC-ID)を付番管理することです。また、様々なメディアやサービス連携することを可能にするAPIの開発や提供、またアーティストオフィシャルプロフィール、写真の提供も手掛けていきます。AC-IDは音楽関連のアーティストを中心に付番しておりますが、タレント、俳優、スポーツ選手、著名人などに広げていくことをめざしております。

 アーティストコモンズの機能効果として、正確なアーティスト関連サービスの利用状況の把握、不正利用の防止につながる情報ハブ(indexer)があります。今後は、ライブビューイング、音楽サブスクリプション、イベント・チケット、マーチャンダイジングなどに活用できる基礎的なインフラとして活用できると考えております。これらの取り組みを通じて、GAFAと呼ばれるメガプラットフォームとは異なるエコシステム形成を目指していきます。なおradikoでは、2019年2月18日から試験サービスを開始し、オンエア楽曲に連動した、関連アーティストの公演、チケット情報を提供しています。

 さて、冒頭も申し上げましたが、メディアプラットフォームの構築にあたっては、技術、権利処理、ビジネスモデルが重要と申し上げましたが、言うまでもありませんが、それらのベースになるビジョンが最も重要となると考えております。これらは、メディアプラットフォームの構築に限らず、すべてのプロジェクトで最も大切なことと考えています。

ご清聴ありがとうございました。

(質疑応答)
Q.エリア制限について、より詳細に具体的に聞きたい。
A.放送法では、免許を取得した域内に届ける義務があるが、域外に届けてはいけないという規定はありませんが、ただし、CMなどを中心に海外に送信されてしまうことに懸念があると考えています。

Q.ラジオ放送局での、利益や費用配分はどのようにされているのか。
A.人口比と聴取状況などから配分を行っている。

Q. タイムフリーできる番組とできない番組があるのか。
A.権利処理などの都合から、各ラジオ局の編成が決定している。

Q.コミュニティFMなどは参画しないのか。
A.難しいと考えている。

Q.アーティストの名前が変わったもの、グループのメンバーが変更にあった場合の、AC-ID
はどうするのか。
A.可能な限り追跡するが、グループのメンバー変更の反映などは難しいと考えている。

以 上