活動状況

情報知財研究会
過去の研究会

2016年度 第2回情報知財研究会

日 時 : 

2016年10月19日(水)14:00~18:00(受付開始13:00)

場 所 : 

東京大学 情報学環・福武ホール(東京大学 本郷キャンパス)

タイトル : 

知財立国研究会共催シンポジウム「元知財部長会議~今だから言える企業知財部の本音~」

報告者 : モデレーター 玉井克哉(東京大学)

 

 

        スピーカー   青山 高美(元トヨタ自動車株式会社 知的財産部長)
秋元 浩(元武田薬品工業株式会社 常務取締役)
加藤 幹之(元富士通株式会社 経営執行役)
武田 安弘(元株式会社ブリヂストン 知的財産本部長)
荒井 寿光(元特許庁長官)
三村 量一(元知的財産高等裁判所 判事)

概 要 : 

日本を代表する業界・企業の元知財部長を招き、各社の知財戦略や現役時代には言えなかった企業知財部の本音を交えての、ディスカッションを行います。シンポジウム開催後は懇親会も予定しておりますのでそちらも併せてご参加ください。

 

2016年度 第1回情報知財研究会

日 時 : 

2016年7月28日(木)18:30~20:30

場 所 : 

東京大学先端科学技術研究センター知的財産・社会技術研究室丸の内分室

       (東京駅サピアタワー8階)

タイトル : 

「音楽著作権ビジネスの最前線」

報告者 : 吉田新之助(元ポニーキャニオン 法務部)

 

 

概 要 : 

音楽の著作権をめぐるビジネスは、いま、大きな変容期にあります。法的な権利を持つのは作詞家や作曲家といった著作者、それに実演家やレコード会社といった隣接権者ですが、戦後の日本では、芸能プロダクション兼音楽出版社という独特のビジネスが発展してきました。それがいま、ネット社会が発展することにより、基盤のところから揺らいでいます。その現状と将来の展望について、実務の側面からレポートし、ディスカッションを行います。

 

2015年度 第3回情報知財研究会報告

日 時 : 

2016年1月28日(木)18:30~20:30

場 所 : 

ステーションコンファレンス東京 602D (東京駅サピアタワー6階)

タイトル : 

「著作権「ホラーストーリー」の終わり-特にTPPと非親告罪化をめぐって」

報告者 : 玉井 克哉 (東京大学)

 

 

概 要 : 

TPP交渉の途上では、著作権法への影響について、さまざまな「ホラーストーリー」が語られました。その中で最も深刻に懸念されたのが、著作権侵害罪の非親告罪化です。しかし、結果としてみると、「コミケができなくなる」「誰もが犯罪者にされる」「言論の自由が滅ぶ」といった結果には、なりそうもありません。そうした、いわば予期に反した結果になったことの背景には、日本政府代表の尽力があったものと見られます。外部からアクセスできる資料をもとに、これまでの経緯を現在の目で振り返り、今後の反省の材料にしたいと思います。

報告書 : 研究会当日の報告書はこちら

2015年度 第2回情報知財研究会

テーマ :

 パーソナルデータの保護と利活用 -マイナンバー制度の開始を前に-

 

 

 

 

 

日 時 : 2015年12月11日(金)14:00~16:30

場 所 : ステーションコンファレンス東京 605A (東京駅サピアタワー6階)

パネリスト : 板倉陽一郎(弁護士)
鈴木正朝(新潟大学教授)
玉井克哉(東京大学教授)
※佐野究一郎氏(経済産業省)はご欠席となりました。(2015.12.9現在)

        
モデレータ : 鈴木雄一(防衛大学校教授)


概要 : 2016年1月にマイナンバー制度の施行を控え、ビジネスの場でも制度対応への動きが活発化しています。他方、データ保管のデジタル化・クラウド化が進む中、事業者にとってはクラウドでの個人情報保護の担保と適切な利活用がビジネス上で急務といえます。データとクラウドの利活用により、今後、日本の競争力を強化するために何が必要か、率直なディスカッションができればと思います。

 

 

 

 

 

 

 

2015年度 第1回情報知財研究会

テーマ : 「特許法の国際的動向 -米国国際貿易委員会の実務と知的財産の価値評価をめぐって-

日 時 :  2015年4月16日(木)10:00~17:00

場 所 :

 

政策研究大学院大学 想海樓ホール
       (106-8677 港区六本木7-22-1)

主 催 : 東京大学 先端科学技術研究センター

共 催 : 政策研究大学院大学 まちづくりプログラム 知的財産コース

後 援 : 特定非営利活動法人 知的財産研究推進機構(NPO PRIP)

協 力 :ウィンストン・ストロウン法律事務所(Winston & Strawn LLP)
      正林国際特許商標事務所
      アリックスパートナーズ・アジアLLC

主な講演者 :
 ランドール・レーダー 米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)前長官・米国弁護士
 テオドール・エセックス 米国国際貿易委員会(ITC)行政法判事
 三村量一 元知的財産高等裁判所判事・弁護士
 ジョン・アリソン 米国弁護士
 トム・ジャービス 米国弁護士
 デーヴィッド・エンジンガー 米国弁護士
 デーヴィッド・ワン 米国弁護士
 ポール・グーレ 米国弁護士
 正林真之 正林国際特許商標事務所所長・弁理士
 池谷 誠 アリックスパートナーズ・アジアLLC エグゼクティブ・パートナー など 
 

プログラム(予定) : 

 

 9時30分 受付
 10時    開会の御挨拶
 10時10分 日本企業の知財戦略について(三村量一)

第一部 国際貿易委員会(ITC)の実務と日本へのインパクト
10時30分 ITC手続きのビジネスへのインパクト(トム・ジャービス)
11時   当事者間無効手続(Inter Partes Reexamination)のITC手続での戦略的活用
(デーヴィッド・エンジンガー)
11時30分 ラウンド・テーブル・ディスカッション

 12時   昼食休憩

 第二部 米国特許法の最新の動向――知的財産の価値評価を中心に
13時    Quanta判決以降の消尽論の展開(デーヴィッド・ワン)
13時15分 技術評価に関わる裁判外紛争処理手続(ジョン・アリソン)
13時30分 日本企業にとっての知財価値評価の意義(正林真之)
14時    知財訴訟等における損害額算定(池谷誠)
14時30分 知財価値評価のモデル・ケース(ランドール・レーダー)
サンプルとなる特許権と事実関係の整理(ポール・グーレ)
技術評価(アンザローン/エンジンガー)
経済的評価(グーレ/クォ)
仲裁人の予備的評価レポートと評価(レーダー)
特許権者の初回レスポンス(ジャービス)
特許権者の第二次レスポンス(ワン)
仲裁人の最終評価(レーダー)
15時45分 休憩

第三部 全体の総括
16時 特許訴訟における成功の秘訣――レーダー判事とエセックス判事の見解(クォ)
16時30分 質疑応答
16時50分 閉会の辞

レセプション

2014年度 第4回情報知財研究会

テーマ : 

「パーソナルデータとサイバーセキュリティ—個人情報保護法の改正と今後の課題—」


日 時 : 

2015年3月12日(木)14:00~16:30

場 所 : 

ステーションコンファレンス東京 605C (東京駅サピアタワー6階)

パネリスト : 

佐野究一郎(経済産業省商務情報政策局情報経済課長)
        板倉陽一郎(弁護士)
        玉井克哉(東京大学教授)

コメンテーター: 宍戸常寿(東京大学教授)

モデレーター : 

玉井 克哉(東京大学先端科学技術研究センター教授)

概 要 : 

個人情報保護法改正案、マイナンバー法改正案が閣議決定された。この改正を基に、パーソナルデータを利活用するビジネスに期待が寄せられている。そこで今回、当該法改正を契機に、アベノミクスの第三の矢のひとつとして、ビジネスをパーソナルデータの利活用がビジネスを支えるものになるかについて検討した。

まず佐野氏が、情報経済小議会を設置し、ルールの整備、人材育成、データに基づく企業の経営の促進等について検討していると報告した。分野を超えて様々なデータが利活用されていく社会において匿名加工情報を実際に活用するに当たって、法律の制度の外枠でどのように自主的に民間レベルでルールを作るかに期待を寄せているとコメントした。

次に板倉弁護士が、個人情報保護法改正案の改正点を旧法と比較する形で、次の6つのポイントをあげて説明した。
1、個人情報の定義の明確化
  個人情報の定義の明確化(身体的特徴が該当)
  要配慮個人情報(いわゆる機微情報)に関する規定の整備
2、適切な規律の下で個人情報等の有用性を確保
  匿名加工情報に関する加工方法や取扱い等の規定の整備
  個人情報保護指針の作成や届出、公表等の規定の整備
3、個人情報の保護を強化
  トレーサビリティの確保(第三者提供に係る確認及び記録の作成義務)
  不正な利益を図る目的による個人情報データベース等提供罪の新設
4、個人情報保護委員会の新設及びその権限
  個人情報保護委員会を新設し、現行の主務大臣の権限を一元化
5、個人情報の取り扱いのグローバル化
  国境を越えた適用と外国執行当局への情報提供に関する規定の整備
  外国にある第三者への個人データの提供に関する規定の整備
6、その他改正事項
  本人同意を得ない第三者提供(オプトアウト規定)の届出、公表等厳格化
  利用目的の変更を可能とする規定の整備
  取り扱う個人情報が5,000人以下の小規模取扱事業者への対応

 

 次に玉井教授が、法改正とビジネスの将来像についてコメントを加えた。利活用をするビジネスを対象とする法改正だが、今までパーソナルデータと関係なくビジネスをしていた一般のビジネス・ユーザーの視点を提唱すると共に、利活用するビジネスだけでなく、利活用をしないことを謳うビジネスについても報告した。また知的財産法の観点から、ブランド力によって一定の信頼を得、ハードな法を補えるのではとのコメントがあった。

 

 最後に宍戸教授が、匿名加工情報が実際のビジネスで役に立つのかについての懸念、行政機関個人情報保護法・独立行政法人個人情報保護法についての議論の再始動の必要、EUによる同等性認定に対する疑念、ビッグデータに関する法的枠組みの必要性、共同規制の他の使い道の模索等についてのコメントをした。

 

 その後、会場からの質問が盛んに投げかけられ、個人情報保護委員会の設立という達成、匿名加工情報の条文のあり方、マルチステイクスホルダープロセスにおける消費者の立場等について、ビジネスの観点も含めて、議論を深めた。

2014年度 第3回情報知財研究会

テーマ : 

「パーソナルデータ保護の将来像 
-プライバシーとビジネスの調和は果たされるのか-」

日 時 : 

2015年1月28日(水)18:30~20:30

場 所 : 

ステーションコンファレンス東京 605A (東京駅サピアタワー6階)

講 師 : 

宍戸 常寿(東京大学法学部教授)
安念 潤司(中央大学法科大学院教授)

司 会 : 

玉井 克哉(東京大学先端科学技術研究センター教授)

概 要 : 

個人情報保護法の改正案については、年末12月19日に「パーソナル・データに関する検討会」で「骨子」が示されたところですが、その内容については、一 般市民のプライバシーの観点から学者や消費者団体から意見が出ているほか、ビジネスの円滑化という観点からも議論が必要になると思われます。これについ て、検討会委員でもある宍戸常寿東京大学教授からお話を伺ったあと、安念潤司中央大学教授からコメントをいただき、そのあと自由闊達に議論をして、今後の 展開がよりよいものになるように図りたいと思います。

2014年度 第2回情報知財研究会

テーマ : 

ヨーロッパ特許法のこれから
-日独特許法シンポジウムと統一欧州特許をめぐって

日 時 : 

2014年10月20日(月)15:00~17:30

場 所 : 

東京大学先端科学技術研究センター知的財産・社会技術研究室丸の内分室

報告者1 : 

玉井 克哉 (東京大学教授)
ドイツ特許法の最近の話題-日独特許法シンポジウムでわかったこと-
(1)標準必須特許
(2)均等論
(3)方法特許と権利侵害の範囲

報告者2 : 

Dr. Anton Horn (HEUKING KÜHN LÜER WOJTEK)
-徐々に明確化する統一特許のあり方-

概 要 : 

研究会の前半は、東京大学の玉井克哉教授(本研究会幹事)が、「日独特許法の最近の話題」と題した報告を行った。 内容は、10月2日(木)にミュンヒェンのドイツ特許商標庁で開催された独日法律家協会主催の研究会(Patent Litigatin in Japan and Germany)について、その内容を報告するとともに、日独特許法の比較を行うというものである。
冒頭、同研究会が参加者約400名の大規模なものであったこと、ドイツ側から連邦大審院(BGH)第10部(特許部)からペーター・マイヤー=ベック部総括判事とクラウス・グラビンスキ判事、デュッセルドルフ高裁(OLG)からトーマス・キューネン部総括判事が参加し、日本側からも知財高裁の飯村敏明前所長、設樂隆一所長、三村量一元判事が参加するなど、実務的に極めて興味深いものだったことが紹介された。また、日本とは異なるドイツの裁判制度について、簡単に紹介された。 次に、当日の議論の焦点になった標準必須特許(Standard Essential Patents; SEPs)に関して、BGHが2009年に示した判断(Orange-Book-Standard判決)が2014年5月の知財高裁大合議部判決(当時の飯村所長と設樂現所長も関与していた)にズレがあること、後者は興味深いことに(理論構成は異なるが)EU独禁法に関して欧州委員会の採っている立場と結論的に似通っていることが紹介された。そして、「ライセンスを得る意思」とライセンス料相当額の事前の支払提供を要件とするBGHの立場の方に、「ライセンス交渉をする意思」のみで足りるとする欧州委員会・知財高裁よりも強い説得力を認めるというのが、当日のドイツ側の一般的な雰囲気だったことが報告された。また、本件についてはEU法院(CJEU)に対してドイツの裁判所から先決問題決定移送がなされており、2014年9月の口頭弁論を経て2015年にも結論が下される見込みである。 また、均等論に関しては、近時のドイツの判例が、均等物が同一の技術的効果を奏すること(置換可能性要件に相当)と当業者にとっての自明性を有すること(置換容易性要件に相当)のほか、特許請求に示された技術的事項を基礎に同一志向の下で当業者により変更がなされうることを要件とするようになっており(2002年のSchneidmesser I 判決)、均等の範囲から公知技術が除外されるという従前の判例(Formstein判決)を前提とすると、日本の判例とほぼ同じような判断が下されることになるのではないか、との指摘がなされた。(ただし、出願経過禁反言の法理はドイツには存在しないので、上記Scheidmesser判決の考慮事情に一部を取り込むとしても、なお偏差が生じうる。) このほか、方法特許と権利侵害の範囲や専門裁判所のあり方について興味深いディスカッションが行われたことが紹介された。

続いて後半は、EU統一特許制度についての動向とその内容についてHeuking Kühn Lüer Wojtekに所属する弁護士であるDr. Anton Hornにお話をいただいた。 まず、EU統一特許制度の下での新たな裁判所の制度について説明がなされた。裁判所には大きく分けて二種類ある。一つは第二審(最終審)レベルのCourt of Appealであり、これはルクセンブルグのみに設置され、シンプルである。もう一つは第一審レベルのCourt of First Instanceであり、こちらは複雑である。即ち、第一審には、Central Division、Local Division、Regional Divisionという三種類の機関が設けられるのである。
このうち、Central Divisionはパリに本部が置かれ、ロンドンとミュンヘンに、それぞれ特定の技術分野を所管する支部が置かれる。また、Local Divisionは各加盟国が4カ所まで設置することができ、ドイツについては、デュッセルドルフ、ミュンヘン、マンハイム、ハンブルクに置かれることが決まっている。さらにRegional Divisionは単独でLocal Divisionを設けない加盟国を対象にしたもので、例えばストックホルムには、スウェーデンのほか、エストニア、ラトビア及びリトアニアを所管するものが置かれる。 現状は、2013年2月19日に基本条約(UPC)が締結され、13の加盟国による批准(ただし英独仏の批准は必須であり、いずれかが批准しない場合は発効しない)を待っている状況である。現時点で5か国しか批准していないが、2020年ごろにはEU統一特許制度が実行段階に移り、単一不可分の特許がEU全体で有効となり、統一した裁判制度でエンフォースメントされることが期待されている。(最大の不安要因は、英国がEUから脱退することである。) とはいえ、まだ決定されていない事項もある。どこにLocal Divisionを設置するかという耳目を惹きやすい問題もあれば、年間の特許料、訴訟手続きのルール、そして訴訟がどの言語で進められるのかといった、地味な問題もある。
これらは、地味な問題ではあるが、実際には大きな問題である。 まず、新条約では、ヨーロッパ特許制度の下で成立した特許権は原則としてすべて新制度に移行し、それを好まない特許権者は、オプトアウトすることになっている。しかし年間の特許料が分からないと、特許権者としては、新制度に移行するのか旧制度のままでいるのかを決めることができない。(周知の通り現行制度下での特許権は各国特許権の束であるが、その性格は新制度に移行しても変わらない。したがって、たとえば特許権者が米英仏とルーマニアを指定国とする欧州特許権を有している場合、その4国についてかかる費用の合計と新条約に基づいてかかる費用を比較しなければ、意思決定のしようがないのである。
より深刻なのは、潜在的被告の立場である。この場合、特許権者と違って選択権はなく、オプトアウトもできない。すべて特許権者がイニシアティブを握ることになる。 その際、パテント・トロールにとって、新条約に基づく制度の不透明さが大きな武器となりうる。たとえば、仮に裁判手続での使用言語が加盟各国に委ねられることとなり、ブカレストにルーマニアがLocal Divisionを設置して、ルーマニア語を使用言語に定めたとしよう。新条約によると、3名の担当裁判官のうち2名はルーマニア人となる可能性がある。そしてこの場合、特許権者であるトロールが日本企業をブカレストで訴えると、ルーマニア語で手続を遂行する必要がある。複雑な特許訴訟に対応できる裁判官や弁護士はルーマニアには少ないが、そこに仕事が集中することになるのである。
これに対する防御策は乏しい。新条約の下では、トロールの保有する特許権に対して潜在的被告がなしうるのは、パリ等のCentral Divisionにおいて特許無効手続を提起することのみである。だが、特許権者が原則となって侵害訴訟を提起した場合、侵害訴訟手続きの中で無効の抗弁を主張することはできても、別途に無効手続を権利として提起することはできない。(裁判所が裁量的に無効に関する先決決定を中央部に求めることはできるが、被告の権利ではない。)新条約の下でルーマニア(あるいは、ブルガリア、ギリシャ、ハンガリー等々)がどのような運用をするかはまったく不透明であり、その不透明さは原告にも被告にも同様なのであるが、通常のビジネスを営むメーカーにとってはそうした不透明さが耐えがたいのに対し、トロールの立場であれば、不透明さをむしろ武器とすることができる。企業内の知財担当者の立場でいうなら、なぜそのような状況に追い込まれてしまったのか、経営陣に説明を求められることになるかもしれない。
そうした事態は、米国のトロールがしばしば訴えを提起するテキサス東部地区連邦地裁において、陪審の判断が極めて不透明なことと比較することができよう。それでも同地裁では(テキサス訛りではあっても)英語が通じるのであるが、ブカレストやソフィアでの手続では、それすら期待することができない。これに対応するすべは、トロールの訴訟提起に先立ってCentral Division における無効手続を開始することのみである。ということは、できる限り早く、可能ならば新条約施行のその日に、パリで手続を開始するのがよい、ということになる。トロールにはブカレストでの訴訟提起を準備する十分な時間があるのだから、彼らも可能な限り早く手続を開始し、こちらの対抗手段を封じようとするはずだからである。ということは、仮に新条約の施行が2020年になるとしても、その準備は早い方がよい、早ければ早い方がよいということである。

2014年度 第1回情報知財研究会

テーマ : 

パーソナルデータの利活用に関する検討会に参加して
~消費者の立場から個人情報保護制度を考える~

日 時 : 

2014年7月24日(木)18:30~20:30

場 所 : 

東京大学先端科学技術研究センター知的財産・社会技術研究室丸の内分室

講 師 : 

松岡 萬里野 氏(一般財団法人日本消費者協会理事長)

概 要 : 

個人情報保護法が制定されてから10余年が経過したが、その間の情報通信技術の飛躍的な進展による状況の変化に鑑み、パーソナルデータの利活用に関する制度の改正が検討されている。平成26年6月24日には、「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱」が高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部によって決定された。
そこで今回は、一般財団法人日本消費者協会の理事長であり、パーソナルデータに関する検討会の委員を務められた松岡萬里野氏をお招きし、以下のようなご報告をいただいた。

パーソナルデータの利活用に関しては全く否定するものではないが、それにあたって法の整備が必要不可欠である。制定当初から個人情報保護法については不十分であると感じていた(個人情報の定義と範囲が不明瞭である点・「侵害してはならない権利」が明記されていない点等)。 今回の「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱」でも、上記のような現行個人情報保護法の問題点は改善されておらず、積み残した課題が大いに残っていると感じている。
個人情報の定義と範囲を第三者機関の解釈に任せるとしているが、法律で定めるべきである。また、第三者機関の承認なく“特定性を低減したデータ”として利用した者に刑事罰を設け、遵守させる仕組みが必要である。
第三者機関の創設はもとより強く求めてきたが、第三者機関が十分に権限の行使と機能の活用ができるような体制を整えていかねばならない。また、グローバル化への対応の遅さは深刻であり、日本国民の不利益にならないよう早急に施策を策定すべきである。 今後、消費者団体としては、個人情報の分野に精通している人を育成していくこと、情報を広く共有すること、一般消費者への情報発信をしていくことが必要だと感じている。

以上のような報告の後、第三者機関のあり方や民間の自主規制ルール策定等について質問や意見が出され、議論をさらに深めることができた。

2013年度 第6回情報知財研究会

テーマ : 

パーソナルデータの利活用促進と教育現場での問題
~「子供のプライバシー」についての問題提起をかねて~

日 時 : 

2014年3月13日(木)18:30~20:30

場 所 : 

サピアタワー ステーション・コンファレンス東京 6階 602AB

講 師 : 

ジェフ・グールド氏(NPO法人SafeGov代表)

後 援 : 

NPO法人知的財産研究推進機構(PRIP Tokyo)

概 要 : 

今回の研究会は、公的機関におけるクラウドコンピューティングについての産業フォーラム、SafeGov代表であり、ITマーケティングの専門家でもあるジェフ・グールド氏をお招きして開催された。
SafeGovは教育、行政、法律の執行の際の公的部門でのクラウドコンピューティングの安全な使用を促進することを目的としており、米国を本拠地としな がらも、EU各国やアジアの多くの国々で活動している。今回は各国の当局者との交流を通じて得られた知識を背景に、米国の現状と日本のデータ保護法の整備 に関する提言が行われた。
米国における学校でのデータマイニングは非常に深刻であり、グーグル(Google)に対するクラスアクションは現在大きな注目を集めている。子どもの学 校でのデバイスの使用の結果得られた個人データを契約に違反して集積し、グーグル以外の、例えばフェイスブックやユーチューブでの広告に使用していたこと がこの訴訟を引き起こしたが、グーグルはこのような利用は、契約の中の「サービスの提供に必要なデータの利用」に該当するとしている。また、データマイニ ングについては以前から周知のことであり、契約書の中に明示的に書かれていなかったとしてもそれは当然行われるものと考えるべきだと主張している。
この事例から、学校はタブレットの導入の際に明確な文言でデータマイニングの禁止を書き込むべきであることがわかるが、法律の専門家ではない学校関係者のために具体的なガイドラインを定めることが急務となっている。
米国以外の授業のデジタル化の進んでいる諸外国においても、例えばスウェーデンではプライバシーへの配慮からGoogle Apps for Educationの使用を停止する学校が現れるなど、データマイニングの問題は次第に大きな注目を集め利用になっている。
日本でもタブレットやコンピュータを学校教育に導入することが検討されているが、現段階ではこれらの電子機器の教室での使用はあまり一般的ではない。日本 ではデータマイニングの問題の認知度は高くないが、一度法律が整備されると、それを変更するのは極めて難しくなるため、グールド氏は、現段階で学校におけ る子どもからのデータマイニングを防ぐ強力な法制度を整備する必要性を訴えた。

2013年度 第5回情報知財研究会

テーマ : 

「他の事業者の事業活動を排除する包括徴収方式を行うJASRACは悪者か?
技術と業界と法制との捻れを俯瞰する」

日 時 : 

12月13日(金)18時30分~21時

場 所 : 

東京大学先端科学技術研究センター 知的財産・社会技術研究室丸の内分
室(サピアタワー8階)

報告者 : 

境 真良 氏(経済産業省商務情報政策局国際戦略情報分析官)

概 要 : 

今回の研究会は、JASRACが放送事業者と締結している包括的利用許諾契約につて平成25年11月1日東京高等裁判所がくだした判決を考察したものであ る。平成21年2月、公正取引委員会が、JASRACが放送事業者と締結している包括的利用許諾契約は他の事業者の参入を阻害しているとして排除措置命令 を出した。JASRACがそれを不服として審判を請求したところ、公正取引委員会は平成24年6月、当該排除措置命令を取り消す旨の審決を出した。それを 受けて他の事業者が公正取引委員会に対して審決の取消を求めて提訴したところ、平成25年11月1日東京高裁は、包括的利用許諾契約が競争制限的であると して審決を取り消す旨の判決を下した。
今回の研究会では報告者より、著作権等管理事業法のこれまでの運用や配信方法の多様化するこれからの時代においては包括的利用許諾契約が必要なものである ことが発表され、今回の判決を受けて今後、指定著作権等管理事業者が包括的利用許諾契約を締結している場合、他の著作権管理事業者が同様の条件で参加する ことを認める旨の規定を著作権等管理事業法に加えてはどうかという提案等がなされた。
それを受けて、研究者や他の著作権等管理事業者から様々な意見が出され、放送のみならずネット配信など多様な配信方法を見据えた議論がなされ各々の見解を深めた。

2013年度 第4回情報知財研究会

テーマ : 

TPPで日本の著作権法はどう変わるか‐保護期間延長問題を中心に‐

日 時 : 

2013年11月1日(金)18:30~20:30

場 所 : 

泉ガーデンタワー13階

報告者 : 

福井 健策(弁護士/日本大学芸術学部客員教授)
玉井 克哉(東京大学教授)

司 会 : 

鈴木 雄一(防衛大学校教授)

概 要 : 

現在、日本の著作権法では、著作権は著作者の死後50年経過することによって消滅すると定められているが、昨今のTPP交渉においてその保護期間を50年 から70年に延長することが求められている。そこで、今回は、TPPにおける交渉事の知的財産分野の内の1つである、著作権保護期間の延長という論点に焦 点が当てられた。
研究会は、福井氏、玉井氏が交互に報告を行い、その後お互いの報告に対する意見を述べ、会場からの質問に答えるという形式で進められた。
まず、福井氏が、著作権保護期間延長推進論者が挙げる延長のメリット(創作意欲が高まる、国際標準の統一など)に対し反論したうえで、延長の懸念点をあげ (死蔵作品の増加、二次創作が困難になること、国際収支赤字の増大、孤児著作物の増加)、延長には断固応じるべきではないとの持論を展開した。具体的に は、延長のメリットの創作意欲が高まる点については、作者の死後50年後のことを考えて創作活動を行っている創作者は稀であること、国際標準の統一につい ては、米国自身ですら作品の時期に応じて扱いを異にしていることや、国際標準を統一するにしてもあえて長い方に合わせる合理性がないことなどが挙げられ た。
また、延長によって、著作物の権利者探しにかかるコストが非常に増大してしまうことにより、著作物をデジタルアーカイブ化することが阻害され、死蔵作品が 増加してしまうとの主張がなされた。さらに、著作権の保護期間を延長することにより、著作権の切れた作品(パブリックドメイン)を使用した二次創作ができ なくなってしまうという問題も指摘された。 
最後に、保護期間が50年の現在ですら、権利者不明の孤児著作物が多く存在することが説明され、保護期間が延長されるとさらに孤児著作物が増加する懸念があるとの意見が述べられた。
一方、玉井氏は、著作権保護期間の延長が純粋な国内法のみの問題であれば延長すべきではないが、TPPの包括交渉の一環となったいま、その性質はTPP交 渉の全体を左右するほど重要な問題ではなく、他の死活的な交渉事案(著作権侵害の非親告罪化など)を有利に進めるための交渉材料とすべきではないかとの意 見が述べられ、福井氏の挙げた延長の懸念点に対し反論した。具体的には、国際収支の赤字についてはビジネスソフトによるものが多いこと、またそもそも包括 交渉になったのであるから著作権に関する赤字のみの増減を論じるべきではなく、他の交渉ごとも含め全体として日本経済全体がプラスに働けばよいとの主張が なされた。
さらに、孤児著作物問題については、そもそも50年であろうと70年であろうと解決しなければならない重大な問題であり、EUが採用したようなオプトアウ ト方式を国内で整備するなど別の解決を図るべきであり、TPP交渉の中で問題にすべきことではないとの意見が述べられた。
こうした報告の後、会場から保護期間延長と引換えにどの条項を勝ち取るべきか、著作隣接権についてはどのように扱われているのか、TPPで保護期間延長を 妥結することがポリシーロンダリングに使われるのではないかなどの質問がなされ、さらに議論を深めることができた。

2013年度 第3回情報知財研究会

テーマ : 

個人データの活用とプライバシー ~ビジネスと法律の狭間で~

日 時 : 

2013年6月3日(月)14時~17時30分 

場 所 : 

ステーションコンファレンス東京605

主 催 : 

情報通信学会 情報知財研究会

後 援 : 

NPO法人知的財産研究推進機構(PRIP Tokyo)

プログラム:

第一セッション データ活用とプライバシー  14時00分~15時20分
欧州の最近の動き  Jeff Gould (NPO法人SafeGov代表)
米国のビジネスから  Eric Clemons(ペンシルヴェニア大学ウォートン校教授)
日本のデータ活用ビジネスの条件 玉井克哉(東京大学先端科学技術研究センター教授)

第二セッション ビジネスの現状とデータの活用 15時30分~16時30分
パーソナルデータの利活用と将来の発展 三又裕生(経済産業省商務情報政策局情報政策課長)
ビジネス事業者から見た、パーソナルデータ活用への期待と課題 高崎晴夫
(株式会社KDDI総研取締役主席研究員)

第三セッション ディスカッション 16時30分~17時20分
ディスカッション 
全体統括 鈴木正朝(新潟大学法学部教授)

概 要 : 

2013年度第3回研究会は,「個人データの活用とプライバシー」をテーマに,産学官の識者4名及び外国の識者2名を迎えてシンポジウム形式で行われた。各登壇者の報告概要を以下紹介する。

(Jeff Gould氏)
データマイニングの技術の発展は目覚ましいものがあるが,真の意味での匿名性をもったトラッキングは存在しないということを前提として法規制を検討する必要がある。
ビッグデータに関する規制を検討するにあたっては,EU当局の見解が参考になる。明確な情報を与えた上で利用者が選択する権利,オプトアウトの権利を与え なければならないという見解である。ここで注意が必要なことは,適切な選択をすることができない人々(たとえば子どもたちがその例である)に対しては,選 択をできない人の代理として組織が同意をすることはできず,より保護が必要になるということである。
日本においてはクラウドやビッグデータの導入が進んでいないが,世界的にみるとビッグデータについて強い規制が行われているところ(たとえばマレーシアや トルコ)ほどビッグデータの活用が進んでいる。強い規制により利用者が安心してビックデータを利用することが可能になり,そのことによってビッグデータの 利用促進につながるためである。このことからも技術活用を促すためには,規制をなくすのではなく,むしろ規制を強化すべきであるといえる。

(Eric Clemons氏)
ターゲット広告がよいものであるというのは間違いである。ターゲティング広告を出した企業は,広告を出した段階では個人を特定できていないが,ある一定の グループに当該個人が属していることを知っている。つまり広告をクリックした段階で,特定個人とその属性というものが結びつき,匿名性が失われてしまう。
情報の取得にあたっては完全な透明性が必要である。サーチエンジンに入力された言葉はどのように利用され,メール,位置情報などとどのように組み合わせて いるのかの説明がなされ,十分に同意を得た上での取得が必要である。しかもそれらを明確な形で伝える(たとえば,黙秘権の告知のように入力したことは不利 に扱われることもあるということをはっきり伝える)べきである。こうして透明性を確保し,十分な同意を得た上での情報の活用であれば,公平な競争を確保で きるといえる。
現在の消費者はどのようなかたちでデータが利用されているか理解しておらず,消費者から苦情が出ていないのは,現状を知らないからである。特に子どもたち は,データが永遠に利用されるという時間の幅や歴史的意味合いについて理解していないことからすると,保護が必要である。国民の要望とビジネスの進展の双 方を阻害しないかたちで個人情報保護を行うべきである。

(玉井 克哉 氏)
日本の憲法学においては,プライバシーは自己情報コントロール権ととらえられてきた。憲法学は公権力の介入に警戒感をもつのが従来の考え方だが,今日のプ ライバシー問題は公権力の介入という場面ではない。一つ一つを切り離すと重要性が低い情報であるが大量に集積すると意味を持つ情報(たとえば,購買意欲を 分析するための日常の何気ない行動パターンの情報の集まり)について,国家よりも効率よく集める組織が現れてきた場合は,巨大な権力になる。このような場 合,国家に対する規制を企業に対する規制にも適用できるのではないかと考える。
規制の考え方としては,新しい意味でのプライバシーは人格権ではなく財産権であるとしてとらえ個人情報の欺瞞的な取引は許されないというものや,もはや競争ができなくなる環境をつくりだしたといえる場合に独禁法による介入を行うことが挙げられる。
日本の個人情報保護法は,概念があいまいで,違反に対する制裁がほとんどないことに問題がある。電気通信事業法の通信の秘密に関する規定も改善が必要であ る。今後新しいプライバシー法ができるとしても,規制について日本の事業者だけにしか執行できないのであれば不平等であり,この点の検討が必要である。

(三又 裕生 氏)
日本はデータの活用について,ポテンシャルがあるのに実際の活用が進んでいないという認識である。日本の企業と米国の企業とで,IT投資の目的について調 査を行うと日本はいまだにコストダウンが挙げられ,データの種類も財務やPOSなどの定型的なデータのみで,SNSやGPS,コールセンターの音声など欧 米で活用が進んでいるデータの活用が進んでいない。また法制度の面でも保護の体制が整っておらず,データの保護も活用もいずれも遅れているという状態であ る。
データ活用事例としては,医療健康の分野がある。レセプトやカルテは電子化が進んでいるが共有というものが進んでない。どこまで共有していいかのルールが 不明確ということが影響している。情報の連携がすすめば,疾病の予防や新薬開発にもつながり得るので,個人の利益になるうえに,予防がサービスになれば成 長戦略にもなる。
現在の政策としては,政府全体のIT政策の司令塔となる政府CIOの創設,番号制(マイナンバー)の導入,公的部門の保有データの開放などが進められてい る。今回経産省からは事業者と消費者の信頼構築という観点から報告書を出した。消費者にできるだけ選択肢を与える,標準化や規格化を行っていくというも の,事業者に対して客観的な評価を行う(第三者による認証)仕組みをつくろうというものである。

(高崎 晴夫 氏)
パーソナル情報は新たなる資産価値の出現と言われている。グローバル市場では既に争奪戦が始まっている。
日本の事業者によるパーソナルデータの活用が進まないのはレピュテーションリスクを恐れているというだけでなく,本当にビジネスモデルとして成り立つのか 自信がないというのが事情の一つにあるのではないかと考える。EU当局は,建前はデータ保護と言っているが,一方で自国内のベンチャーを育てたい,外資を 締め出したいという思いがあるのではないかと思う。なおこのことに関連し,日本における規制の非対称性(電子通信事業法による日本企業のみに対する規制) はやはり問題である。
パーソナルデータは情報財として市場取引可能かという問題は,次のような課題(阻害要因)がある。消費者と事業者間の情報の非対称性の問題,パーソナル データの不可逆性(一度流出すると損害を回復できない),取引費用の問題(消費者の認識する情報の経済的価値と企業の認識する価値のギャップという問題も ある)などである。これらの阻害要因を除去し市場流通させるために必要な政策の検討が必要である。


(鈴木 正朝 氏)
プライバシーの権利について,ビジネスレイヤーではなく,法の理論的な基礎からの議論が必要である。プライバシーの権利は財産的権利ではない。財産的権利 であれば民法ですべて処理できるはずで,現在のような悩みはないはずである。財産的権利のように見えるのは,法がプライバシーの権利を保護の対象としてい るため,反射的な効果として財貨的性質が発生しているためである。
プライバシーの問題について議論するにあたって,ゲノム情報におけるプライバシーの問題を考えることは有益である。ゲノムの問題となると,ビジネスレイヤーから進んで,憲法や哲学の問題まで踏み込んで議論がなされるからである。
現在情報をビジネスとしている企業はどれも米国企業で,データが海外に流出している。このままでは同じ人権思想を持たない外国が日本のデータを利用することになる。日本は情報流通のハブ機能を持たなければならない。

第三セッションのディスカッションにおいては,省庁間連携の必要性,EUで議論が進んでいる忘れられる権利をより実効性を持たせるための構成のあり方,EUのデータ保護法29条WGにおけるプロファイルが許される範囲などについて議論が行われた。

以上

2013年度 第2回情報知財研究会

日 時 : 

2013年4月22日(月)18時30分~20時00分

場 所 : 

東京大学先端科学技術研究センター
知的財産・社会技術研究室 丸の内分室(サピアタワー8階)

講 師 : 

ジェフ・グールド氏(NPO法人SafeGov代表)

後 援 : 

NPO法人知的財産研究推進機構(PRIP Tokyo)

テーマ : 

「個人情報保護法における第三者提供制限義務(23条)の課題と利活用促進策の限界 -現行法下での連結可能匿名化容認案等と23条の潜脱的解釈の問題」

報告者 : 

新潟大学 法学部 教授 鈴木 正朝 氏

概 要 : 

2013年度第2回研究会は、前年度第6回研究会に引き続き新潟大学の鈴木正朝教授をお招きし、主に医療情報に関する情報の利活用促進と個人情報の保護に関してゲノム創薬を題材にご報告をいただいた。報告の趣旨は以下の通りである。
ゲノム創薬を開発するためには、資金と技術力のみならず、患者の医療情報を集積することが不可欠である。しかし、現在の日本では、医療情報を開示すること に消極的な人が多く、このままでは、情報収集の国際競争に負けてしまい、十分なデータを取ることができず、ゲノム創薬開発で国際的に大きく後れを取ってし まう。情報収集の不完全さから技術開発が遅れてしまうのはゲノム創薬開発に限ったことではない。
そのような状況を打破するためには、個人の尊重の理念、個人情報の内容や価値に応じた分類、本人関与の強化(十分な説明を受けたうえで情報を提供するかど うかの選択ができる、さらにその情報の消去を求めることができる)、情報提供による便益の提供、等を踏まえた法制度の整備が必要である。また、情報を保護 し、国民が安心して情報を提供できるようにするため、立ち入り調査権を付与された第三者機関の設置や一時利用(患者の治療や在宅医療介護など本人のための 利用)では実名を原則としつつ二次利用(研究や創薬開発事業など本人以外のための利用)の際には連結可能匿名化の導入(開示制度を定め原則として個人が特 定されない)なども検討の必要がある。
報告後、参加者から第三者機関の設置による監視ではなく、業界の自主的規制に委ねることはできないか等様々な質問があり、それぞれの問題につき活発な議論がなされた。
以上

2013年度 第1回情報知財研究会

日 時 : 

2013年4月11日(木)18時30分~20時30分

場 所 : 

東京大学先端研知的財産権大部門丸の内分室
(東京駅八重洲側新幹線日本橋口直結 サピアタワー8階)

発表者 : 

矢野 直明 氏(サイバーリテラシー研究所代表)

テーマ : 

20年間の事件事故を通して見る「IT社会の難点」

概 要 : 

インターネットが私たちの生活に浸透して、インターネット元年と呼ばれる1995年から数えても、すでに20年近くたつ。報告ではまず、サイバー空間の発 見と驚きをもたらした1998年の青酸カリをめぐるドクター・キリコ事件から、2012年の遠隔操作ウイルス誤認逮捕事件にいたるまで25の代表的なイン ターネットがらみの事件事故が紹介された。
IT社会は便利であることは確かだが、難点もある。難点のひとつとして、インターネットの世界は、小さな行為が増幅され大きな影響力をうむということがあ る。それらの小さな行為を追及すると、それぞれが「たわいもないこと」に分散し、社会的責任が蒸発してしまうという問題がある。中傷を行う書き込みが多数 の者により集中的になされたとしても、それぞれの書き込みをした者は起訴されなかった事例がある。
IT社会の前の段階に戻ることはできないという現実があるため、これらの難点を克服することが課題である。たとえば、IT社会では自己の行為の影響力を考 慮して万人に道具を使うかどうかの瞬時の判断が要請される。それらの判断を法律やルールで規制することは難しく、IT社会の倫理で克服することが必要であ ることが主張された。
報告後の議論の中では、IT社会の倫理の具体的な中身はどうあるべきか、倫理とマナーの違い、法律と倫理の役割分担などを中心として活発な議論がなされた。

2012年度 第7回情報知財研究会

テーマ : 

医療情報の収集と利活用に伴う法的問題~患者登録の取組み

日 時 : 

2013年3月22日(金)18:30~20:30

場 所 : 

東京大学先端研知的財産権大部門丸の内分室
(東京駅八重洲側新幹線日本橋口直結 サピアタワー8階)

発表者 : 

森田 瑞樹(東京大学知の構造化センター/独立行政法人医薬基盤研究所/NPO法人 知的財産研究推進機構)
百瀬 理絵(弁護士/NPO法人 知的財産研究推進機構)

概 要 : 

NPO法人 知的財産研究推進機構は,平成24年度から厚生労働科学研究「患者支援団体等が主体的に難病研究支援を実施するための体制構築に向けた研究」(以下,本研 究)の研究班の一員として,日本難病・疾病団体協議会(JPA)とともに共同研究を実施している。そのなかで,患者団体等が主体的に患者自身の情報を集め て研究機関等に提供するという仕組み(患者登録)について,法的な側面から検討が行われている。
そもそも,個人の疾患名や症状などの医療情報は,機微にわたる情報でありその保護の必要性が高い一方,価値が高く利活用・流通のニーズも高いため,その保 護と利活用をめぐってどのようなルールをつくるか舵取りが難しい問題である。それに加えて,本研究の患者団体が患者自身の情報を集めるというシステムは, 「医療機関でない団体等が管理を行う」,「WEBを通じて医療情報を収集する」,「希少疾患を対象としている」,などの事情が加わることで問題が複雑化し ている分野である。
今回の報告では,ガイドラインが錯綜し何を参照すれば適切なのか不明瞭である現状や登録を継続してもらうためのインセンティブの確保や事業を維持するための資金獲得などの課題についても紹介された。
また,情報提供を受ける際の提供者からの同意の取得についての課題のひとつとして,未成年者からの同意取得の問題が指摘された。患者登録の仕組みがWEB を通じてサービスの一環として行われることから,登録は契約の側面がある。この場合,未成年者が契約に同意していても法定代理人の同意がなければ契約(登 録)を取り消すことが可能である。しかし,自分の医療情報を誰にどんな風に使ってほしいかどうかという判断は,財産権というより人格権が関わる問題である から,法定代理人の意思よりも本人の意思を尊重すべきで,未成年であっても判断能力の備わった一定の年齢(成人年齢より下の年齢)以上の場合は法定代理人 による取り消しを認めるべきでないとの考え方が示された。
報告後の議論の中では,マイナンバー法との関連づけや情報提供によりもたらされた成果物の利益配分のあり方,外国との比較など,参加者相互から活発な意見交換がなされた。

2012年度 第6回情報知財研究会

日 時 : 

12月5日(水)18時30分~20時30分

場 所 : 

東京大学先端研知的財産権大部門丸の内分室
(東京駅八重洲側新幹線日本橋口直結 サピアタワー8階)

発表者 : 

鈴木 正朝(すずき まさとも)教授
(新潟大学大学院実務法学研究科・法学部)

後 援 : 

NPO法人知的財産研究推進機構(PRIP Tokyo)

テーマ : 

「ネットワーク上のプライバシー・個人情報保護と識別子
-「IT融合」等ビッグデータ、ライフログ系ビジネス及び医療情報保護法制における法的基盤整備のポイント」

概 要 : 

2012年度第6回研究会は,新潟大学の鈴木正朝教授をお招きし,ビッグデータやライフログ系ビジネス,医療情報保護法制におけるプライバシー・個人情報保護の法的基盤整備のポイントについて,以下の通りご報告をいただいた。
現在の個人情報保護法は,特定個人の識別情報以外の情報であっても,プライバシーインパクトの強い情報があることに配慮せず,情報の質にかかわらず画一的で形式的判断をする仕組みとなっている点に問題がある。また,たとえば,同じ医療情報でも取扱いの主体が異なると,公的部門の中でも2000に及ぶ条例や主務官庁による違いが生じる状況である。適用法がこれほど複雑化していては,ビッグデータの利活用,IT融合は到底できない。
一方で,対象情報の性質だけでシステムが決まるという問題でもない。全体のビジネスモデルやそれを支える情報システム及びその運営に関わる事業者と個人を総体的に評価する法制へ転換することが必要である。安易にこれ以上規制を緩めていては,越境データ問題に対応することができないので,米国・EUの保護基準をふまえたシステムづくりをする必要がある。
報告後の議論の中では,日本は今後,欧米どちらの方向性をとるのかについて議論がなされるなどした。情報セキュリティが防衛と密接な関連性があることから米の考え方を基本にすべきとの考え方の一方,世代をまたいで情報が残らないようにすべきという観点から忘れられる権利(欧の考え方)が取り入れられることはあるかもしれないとの指摘など,参加者相互から活発な意見交換がなされた。

2012年度 第5回情報知財研究会

日 時 : 

11月16日(金)18時30分~20時30分

場 所 : 

東京大学先端研知的財産権大部門丸の内分室
(東京駅八重洲側新幹線日本橋口直結 サピアタワー8階)

発表者 : 

Eric Clemons(エリック・クレモンス)教授
(ペンシルヴェニア大学ウォートン校(ビジネススクール))

テーマ : 

「ネットワーク上のプライバシー -消費者の行動と選好に関する比較研究」

概 要 : 

2012年度第5回研究会は,ペンシルヴァニア大学ウォートン校(ビジネススクール)のエリック・クレモンス教授をお招きし,ネットワーク上のプライバ シーについて,以下の通りご報告をいただいた。ご報告の要点は,技術革新によりプライバシー法が時代遅れとなっていること,また自主規制にも限界があるこ と,消費者はプライバシーの問題に関心がないわけではないこと,というものである。
クレモンス教授の関心は,消費者がネットワーク上のプライバシーについて,何を理解して,何を理解していないのか,というものに向けられている。今回紹 介された米・日・韓の消費者の意識調査によれば,約50パーセントの人が一部のメールサービスにより,メールの内容が読まれている(scanned)こと に気がついていなかった。また,メール内容を読まれても構わないという消費者は20パーセントにも満たなかったという。このことから,クレモンス教授は, 消費者がメールの内容の利用について抗議をしていないのは,単にそのことに気がついていないことが理由で,そのことを許容しているわけではないとの主張を された。また,プライバシーの規制が時代遅れとなっている例として,サウスカロライナ州において,クラウドが従前の規制対象の定義づけから外れることから 規制の対象とならなかった例を挙げられ,プライバシーに関して,消費者が政府から保護されていないという不満を解消する体制が整っていないことが示され た。
報告後は,プライバシー法の話題に関連して,Yahoo!メールのインタレストマッチ広告(メール内容の解析)の問題について,電気通信事業者か否かと いう電気通信事業法等上の議論ではなく,憲法上の通信の秘密の保障について,どの事業者に対しても私人間効力を及ぼすべきである等の議論がなされた。

2012年度 第4回情報知財研究会

日 時 : 

9月6日(木)18時30分~20時30分

場 所 : 

東京大学先端研知的財産権大部門丸の内分室
(東京駅八重洲側新幹線日本橋口直結 サピアタワー8階)

発表者 : 

塩澤 一洋氏(成蹊大学教授)

テーマ : 

「デジタル著作物特別法は理論的に可能か 」

概 要 : 

2012年度第4回研究会は、成蹊大学の塩澤一洋教授をお招きし、デジタル著作物特別法の理論的可能性について以下の通りご報告をいただいた。今回は、現 在の著作権法を改正するという枠組みではなく、著作権法とは別の枠組みでデジタル著作物の特別法が理論的に可能かという検証を行っていただいた。
まず、アナログ形式で記述された著作物とデジタル著作物との峻別について、流通過程において常に有体物の存在が必要であった従来の著作物と異なり、デジタル著作物は、本当の意味で無体物として著作物が流通しているとの、指摘がなされた。
この区別を前提に、デジタル著作物特別法については、現在の著作権法の原則・例外を逆転させた方がよいとの考えが提唱された。具体的には、著作者の権利 は、原則、著作者人格権のみとする、それ以上の保護を望む場合は登録が必要な登録制とする、利用許諾を前提とした対価請求権を認めるというものである。
この考え方の根底にあるのは、著作権法の存在意義は、「公表支援のフレームワーク」にある、という考え方である(詳しくは、2010年度第2回情報知財研 究会塩澤氏の発表を参照)。デジタルは原本と複製物の間に質的差異がなく、かつ、ネットワークと結びつくことで公表することも容易な環境であることから、 より多くの人に著作物を知ってもらい、鑑賞してもらえるという特徴がある。このデジタルのもつ特徴を生かし、著作権法が公表支援のフレームワークとして機 能するためには、著作物の創作と同時に著作権が成立するという現在の著作権法の仕組みを変える必要があるとの考えである。
報告後は、デジタル著作物特別法の現実的な実現可能性や著作者以外の編集、マーケティングの関与やそれらの権利処理などについて活発な議論がなされ、デジタル著作物の法制度のあり方に強い関心が示された。

2012年度 第3回情報知財研究会

テーマ : 

パーソナルデータの利活用促進と教育現場での問題
~「子供のプライバシー」についての問題提起をかねて~

日 時 : 

6月18日(月)18:30~20:30

場 所 : 

東京大学先端研知的財産権大部門丸の内分室
(東京駅八重洲側新幹線日本橋口直結 サピアタワー8階)

テーマ : 

「インターネット上の名誉棄損・プライバシー侵害をめぐる現状と実務」

発表者 : 

千鳥ヶ淵法律事務所 富田 寛之 弁護士 高橋 未紗 弁護士

報告主旨 : 

2012年度第三回研究会は、千鳥ヶ淵法律事務所の富田弁護士と、高橋弁護士をお招きし、インターネット上の名誉棄損・プライバシー侵害と、プロバイダや裁判所の対応について以下の通りご報告をいただいた。
インターネット上での名誉毀損・プライバシー損害には、3つの特徴がみられる。一つ目は、有名人だけでなく、一般人が対象になりうるということ、二つ目 は、「コピーアンドペースト」機能を使い、簡単に情報が拡散してしまうということ、三つ目には、匿名性の高さがある。以上の特徴から、一度被害が起きてし まうと、ネット上で被害者が反論などを行っても、火に油を注ぐこととなる。従って、被害にはまずプロバイダへの任意の記事削除請求、次に投稿者の特定のた めの発信者情報開示請求、投稿者への記事削除・損害賠償請求と進んでいくのが、適切な対応である。
この10年間で、インターネット上の名誉棄損・プライバシー侵害をめぐる環境は大きく変化した。当初、インターネットには国ができるだけ介入しない方がよ いという考え方があった。しかし、インターネット上での名誉棄損・プライバシー侵害問題が多く発生する中で、コントロールしないと大変なことになる、とい う考え方が一般的になり、プロバイダ責任制限法も制定された。10年前、プロバイダの対応も非常に限られたものであり、裁判所も発信者情報開示の仮処分は 認めなかった。しかし、現在ではプロバイダにも自主的に問題に対応する姿勢が整っている上、裁判所の理解も進んだ。国内プロバイダを通した問題であれば、 高確率で法的問題解決ができる環境が整っている。
しかし、現在、プロバイダが海外法人の場合が問題になっている。発信者情報開示請求をする場合でも、サーバー所在地に対して、国境をまたいで行う場合、多 くの時間と費用がかかる。送達だけでも、数か月の時間が掛かり、迅速な対応が必要になる名誉棄損・プライバシー侵害問題に対処できない。
更に、検索エンジンの存在がこの問題の深刻さに拍車をかけている。現在、多くのインターネット利用者がアドレスを直接打ち込むのではなく、検索エンジンを 通して記事にたどり着いている。検索エンジンのサジェスト機能により名誉棄損となり得るキーワードがサジェストされると、利用者はサジェストされたキー ワードを含めた検索をかけることにより、名誉棄損の記事へたどり着きやすくなる構造となっている。検索エンジンがこの問題に対応するようになれば、イン ターネット上の名誉毀損・プライバシー侵害問題を解決しやすくなる。

今後は、日本の法律をどこまで海外法人を含めたインターネットの世界に及ぼしていけるかが非常に重要である。日本として、対策を考えていくべきだ。今回のgoogleに対する仮処分申立の成功が、問題解決の第一歩になることを願う。
以上のような報告を受けた後、参加者からの質疑応答と活発な議論が行われた。

2012年度 第2回情報知財研究会

日 時 : 

6月14日(木)13:00~15:00

場 所 : 

東京大学先端研知的財産権大部門丸の内分室
(東京駅八重洲側新幹線日本橋口直結 サピアタワー8階)

テーマ : 

「政府クラウドにおけるプライバシー:米国の最新事情」

発表者 : 

Safegov.org Jeff Gould 氏

概 要 : 

2012年度第二回研究会は、米国で政府・公共機関における、信頼のおける、責任のあるクラウド利用を促進する専門家集団であるSafegovより、専門 家Jeff Gould氏をお招きした。Gould氏からは、米国政府によるクラウド利用の現状と課題について報告をいただいた。
2012年現在、世界でのITの市場規模は361億ドルである。2017年には800億ドルになり、そのうちの25%がクラウドに占められるとの予測もた てられるほど、世界でのクラウドに対する需要は高まっている。中でも、米国政府のクラウド利用は、オバマ政権下において、Vivek Kundra氏のCIOへの任命に始まり、「Cloud first」のスローガンの元、非常に広く受け入れられてきた。具体的には、2012年6月までに、米国の全ての省庁で少なくとも3つのクラウドアプリ ケーションのインストールが目標とされていたが、達成率は80%にも昇る。この達成率を促したのはCIOの命令の効力というよりも、クラウド自体の、費用 削減という魅力がある。省庁にとって、設備投資費用がかからないということが、大きな魅力になっているのである。
政府によるクラウド利用が一般化するなかで、安全性の課題が残っているのも事実である。安全性にはセキュリティとプライバシーの2側面がある。セキュリ ティについては、第三者にハッキングやデータの改ざんがされないということが肝要である。プライバシーについては、Web閲覧履歴や行動履歴の追跡など従 来考えられてきたプライバシー問題とは全く別の問題が、ITの登場により起こっている。これらの問題が、消費者環境であれば、個人の問題で済むが、政府・ 行政の範囲にまで及ぶと、想定外の事態を引き起こす可能性があり、注視が必要である。安全性の課題は、決してクラウドに固有のものではなく、ほかのメール システムなどでも同様に問題となっている。システムの脆弱性の原因はシステムそのものではなく利用する個人にあることから、問題解決のためには、利用者個 人のリテラシーを高めていくことが必要である。
政府によるクラウド利用固有の問題としては、ビジネスモデルの改善と、データセンターの置き場所がある。従来型のコンシューマー向けのクラウドのビジネス モデルを、どのようにして政府向けに特化していくか、また、よりセキュリティが要求される政府向けクラウドのデータセンターを国外に置くことが許されるの かどうかといった問題である。消費者のデータレベルでは、Safe Harbor Programが多くの企業とEUとの間で結ばれているが、政府のデータに関しては、データの暗号化や、政府間協議なども含め、もう少し議論が必要な問題 だ。
報告後は、多くの質疑が参加者から発せられ、非常に活発な議論が行われた。
Safegov.org  http://safegov.org/
Jeff Gould氏 http://safegov.org/experts/jeff-gould

2012年度 第1回情報知財研究会

日 時 : 

2012年4月3日(火)15:00~17:00

場 所 : 

東京大学先端研知的財産権大部門丸の内分室
(東京駅八重洲側新幹線日本橋口直結のサピアタワー8階)

発表者 : 

David Wood 弁護士(Gibson, Dunn & Crutcher法律事務所のブラッセル事務所筆頭パートナー)

テーマ : 

「Antitrust & Search」

報告主旨: 

2012年度第1回研究会は、Gibson, Dunn & Crutcher法律事務所、ブラッセル事務所筆頭パートナーのDavid Wood 弁護士をお招きして行われた。今回は「Antitrust & Search」というテーマで、グーグルの検索市場における競争法上の課題について報告が行われた。すでに、この件では欧州委員会が調査を開始し、近く判 断が示される見込みとのことであり、今回の報告も欧州委員会の動向を意識したものとなった。
まず前提として、検索エンジンの種類や現在の検索市場の状況、ユーザーの意思決定において検索結果の順位が重要となること等、について説明がなされた。
次に、欧州委員会への苦情申し立ての内容が紹介された。それは、グーグルが自社の検索エンジンを利用して自社のサービスサイトを優先的に表示させる一方、競合他社のサイトは下位に表示されるような仕組みをつくっているというものである。
この問題の解決策を検討するにあたって、類似の事例として旅行代理店における予約システムの例など過去の裁判例が紹介された。そして、支配的地位の濫用を 解消する解決策として、独占契約の禁止や会計の分離などがいくつか提示された。その中では制裁金を課すだけでは競合他社への抑止にはなっても抜本的に競争 を促すことにつながらないことや、グーグルの規模へどう対処するのかが課題であることなどが指摘された。
報告終了後は、活発な議論が交わされ、今後の欧州委員会の動向とグーグルの対応に強い関心が示された。

2011年度 第6回情報知財研究会

日 時 : 

2012年3月29日(木) 18:30~20:30

場 所 : 

東京大学先端研知的財産権大部門丸の内分室

発表者 : 

林 紘一郎 氏(情報セキュリティ大学院大学学長)

テーマ : 

「Privacy とPropertyの微妙なバランス:Post 論文を切り口にして Warren and Brandeis 論文を読み直す」

報告主旨: 

2011年度第6回研究会は、情報セキュリティ大学院大学学長の林紘一郎先生をお招きして行われた。今回は、Post論文を切り口にした Warren & Brandeis 論文の意義の再評価について報告がなされた。
W&B論文は、「公開された著作物がプロパティとして保護されるのに対して、未公開著作物を保護するには、プロパティとしての保護とは別の体系が必要ではないか」という視点で議論が展開されている。
Post論文は、W&B論文が最初に意図したプライバシーとプロパティの峻別はその後の歴史では曖昧さが残ったままであると問題提起している。 その上で、W&B論文が提唱したプライバシーの権利はパーソナリティを具体的な個人に紐付けしたものである一方、コモン・ロー上の著作権やパブリ シティの権利は、個人の人格に依存しないものと観念されていると整理した。そして、プライバシーとプロパティの差として問題なのは、個人を法としてどのよ うに位置づけるかであると指摘する。すなわち、個人の自我は社会への依存と独立の両方の側面があるが、どちらか一方を前提とした法制化は無益であり、「ど のような環境下であれば、どちらに重点をおくべきか」を意識して法制化を考えるべき、と結論づけている。
以上のようなPost論文による分析を踏まえたうえで、わが国におけるW&B論文の読み方は以下の点で不適切であるとの指摘がなされた。すなわ ち、専ら「人格権」の視点からする議論だけでありプロパティについて全く無視していること、不正利用とパブリシティの権利について分析が乏しいこと、プラ イバシーの保護と個人データの保護の因果関係が不明なまま、両者が直線的に結び付けられていることである。
報告終了後は、情報保護のスキームのあり方や規制コストに目を向けた経済学からのアプローチの必要性などが討論された。

2011年度 第5回情報知財研究会

日 時 : 

3月22日(木)18時30分~20時30分

場 所 : 

東京大学先端研知的財産権大部門丸の内分室

発表者 : 

池上 光朗 氏(日本音楽著作権協会(JASRAC)総務本部企画部主査 )

テーマ : 

「JASRAC概論」

報告主旨: 

2011年度第5回研究会は、日本音楽著作権協会(JASRAC)総務本部企画部主査の池上光朗氏をお招きして行われた。今回は、「JASRAC概論」というテーマで、著作権管理の仕組みや著作権侵害への対応、法人組織JASRACの運営などについて報告がなされた。
まず、著作権管理の仕組みとして、作詞者・作曲者・音楽出版社(委託者)がJASRAC(受託者)に著作権等を移転し、管理を行わせることを目的とする 信託契約が基本となることが解説された。続いて許諾・徴収・分配の基本的な流れが説明されたのち、作品届の競合、著作権の存否・帰属が不明、盗作など、管 理の際に問題が起こった場合の対応や、フィンガープリント技術を用いた楽曲検索等を行う一般社団法人著作権情報集中処理機構(CDC)の紹介等がなされ た。
次に、「カラオケ法理」とロクラクⅡ事件最高裁判決の関連性につき、金築誠志裁判官補足意見の紹介がなされた。同意見が指摘するところは、複製の主体の 判断にあたっては、「単に物理的,自然的に観察するだけで足りるものではなく,社会的,経済的側面をも含め総合的に観察すべきものであって,このことは, 著作物の利用が社会的,経済的側面を持つ行為であることからすれば,法的判断として当然のこと」であり、「カラオケ法理」も,一般的な法解釈の手法の一つ にすぎないので、行為に対する管理,支配と利益の帰属という二要素を固定的なものととらえて、特殊な法理論のようにみなすことは適切でないというものであ る。
最後に、法人組織のJASRACは、信託の受託者であることと一般社団法人という仕組みを組み合わせることによって、二つの側面からコントロールを及ぼすことが可能であることに特徴があるとの指摘がなされた。
報告終了後は、インタラクティブ配信や他国の著作権管理の仕組みとの比較などについて、活発な質疑が展開された。

2011年度 第4回情報知財研究会

日 時 : 

2012年2月27日(月) 10:00~12:00

場 所 : 

東京大学先端研知的財産権大部門丸の内分室

発表者 : 

Eric Clemons教授
(ペンシルバニア大学ワートン・スクール情報マネージメント学科)

テーマ : 

「ネットワークビジネスの課題:米国の事例」

報告主旨: 

2011年度第4回研究会は、ペンシルバニア大学のエリック・クレモンス教授をお招きして行われた。今回は「ONLINE ABUSE OF POWER」というテーマで、オンラインビジネスにおける権力の濫用について、具体的な事例をまじえて報告がなされた。
まず、「Third Party Payer Models」(サードパーティー(第三当事者)が支払者となるビジネスモデル)について説明がなされた。すなわち、ユーザー(第一当事者)は、装置(第 二当事者が提供)を用いて、企業(第三当事者)を見つけようとする。第三当事者は第一当事者に見つけてもらうために、第二当事者に代金を支払うという仕組 みである。ここで、第三当事者が第二当事者へ支払うお金は、商品のブランドを高める広告費とは異なり、誤誘導の恐怖をやわらげる担保でしかないとの指摘が なされた。
次に、1980年代の飛行機予約システム(CRS)を例にとり、具体的なThird Party Payer Modelsの説明がなされた。飛行機会社はシステムに載らなければユーザーから予約をしてもらえないことから、手数料をCRSに支払い、代理店はCRS からのキックバックで満足し、ユーザーはシステム利用のコストが価格に転嫁されていることを認識できなかったという安定した構造から、当局による介入がな されるまで、問題点が顕在化しなかった事例である。
ほかにも、クレジットカードを使えば、消費者には様々なメリットがあるが、そのクレジットカードももとを辿れば加盟店の払う手数料で賄われているという構造から、これも安定したThird Party Payer Modelsであると紹介がなされた。
そして、このモデルは、インターネットの時代においても安定したモデルであり、検索エンジンも似た仕組みであるといえる。Third Party Payer Modelsは、従来の価格規律のもとにおかれておらず、日本及び欧米において規制できる仕組みがないこと、第二当事者は第三当事者への手数料請求だけで なく、第三当事者のビジネスに直接参入することも考えられるとのことであった。
報告終了後は、参加者とクレモンス教授との間で活発な質疑が行われ、Third Party Payer Modelsと並び問題となるソーシャルサーチによるプライバシーの侵害などが議論された。

2011年度 第3回情報知財研究会

日 時 : 

2011年12月15日(木) 18:30~20:30

場 所 : 

東京大学先端研知的財産権大部門丸の内分室
(東京駅八重洲側新幹線日本橋口直結のサピアタワー8階)

発表者 : 

安田 和史 氏(株式会社スズキアンドアソシエイツ・電気通信大学)
鈴木 香織 氏(株式会社スズキアンドアソシエイツ・電気通信大学)
清水 利明 氏(電気通信大学)

テーマ : 

「リーチサイト問題とサイト運営者の責任」

報告主旨: 

2011年度第3回研究会は、電気通信大学・産学官連携研究員の安田和史氏、鈴木香織氏、清水利明氏をお招きして行われた。今回は、「リーチサイト問題と サイト運営者の責任」というテーマで、リーチサイトの問題点、リーチサイトの具体的な機能、リーチサイトの実態調査、法的な対応可能性などについて報告が なされた。
まず、リーチサイトは、侵害コンテンツそのものを直接的には掲載していないものの、侵害コンテンツへのリンクの提供を行うことで、違法コンテンツの拡散機 能を有している点に問題があることが指摘された。リーチサイトにより、違法コンテンツ拡散機能が階層化し、従来の検索による削除システムでは対応が難しい 点に問題の根深さがあるとのことであった。
その後、リーチサイトを「検索エンジン型サイト」と「まとめ型サイト」に類型化した上で、具体的なリーチサイトの機能が紹介された。その中で、リーチサイ トは犯罪性の強いものから合法的なサービスもあることから、実態調査の必要性があることが指摘された。そして、実態調査技術について報告がなされ、侵害コ ンテンツへのリンクの有無だけでなく、リーチサイトの操作手順や収益構造、サイトへのアクセスの属性などについての調査がなされているとのことであった。
最後に、リーチサイトへの法的な対応可能性について、単なるリンクということであれば著作権侵害とは言えないが、実態調査によりサイト運営者の分析が進め ば、リーチサイト運営者とアップローダーが同一である等、直接侵害と擬制しうる可能性があると指摘された。
報告終了後は、参加者の間で非常に活発な質疑が行われ、コンテンツホルダーによるリーチサイトへの対応の現状や、リーチサイトの合法化の可能性等が議論された。

2011年度 第2回情報知財研究会

日 時 : 

2011年7月14日(木) 18:30~20:30

場 所 : 

東京大学先端研知的財産権大部門丸の内分室
(東京駅八重洲側新幹線日本橋口直結のサピアタワー8階) 

発表者 : 

金泳徳 氏(韓国コンテンツ振興院日本事務所長)

テーマ : 

「韓国のデジタル放送と著作権の最新動向」

報告主旨: 

2011年度第2回研究会は、韓国コンテンツ振興院日本事務所の金泳徳所長をお招きして行われた。
金所長の報告は、「韓国における放送事情」と「放送と著作権」という2部構成で行われた。第1部では、日本や米国の影響が強かった戦後間もなくからの韓国 テレビにおける放送の歴史が概説され、軍事政権に翻弄された1960年代から1980年代、ケーブルTVや衛星放送による多チャンネル化が進む1990年 代から2000年代、そしてデジタル・ネットワーク・スマート化が進展する現代に至るまでの放送事情が報告された。韓国における放送の特徴として挙げられ たのは公共放送色の強さである。韓国では、企業や新聞の地上波放送への参入禁止、外資制限や国内制作番組の編成クォーターなどの保護策がとられてきたが、 最近ではネット放送や地デジ転換などを迎えてデジタル・ビッグバンが起こりつつあり、グローバルIT企業が主導する競争が起こっているとのことであった。
第2部では放送と著作権について、韓国における著作権をめぐる環境が報告された。最近では、デジタル・ネットワーク化と韓流ビジネスによって、権利ビジネ スの現場と制度上の変化が促されつつあるという。著作権行政の成果としては、不法複製侵害の減少や世界初のアドレス停止措置などによる保護策等が挙げら れ、一方の課題としては24時間著作権保護システムの構築、著作物利用の活性化、デジタル環境にふさわしい法制度の整備が挙げられた。放送3社 (KBS,MBC,SBS)と外注プロダクションとの関係については、放送局の力の強さが収益の分配割合や著作権の帰属に反映しているとのことであった。
報告のあと、参加者からは非常に活発な質疑・意見が行われ、韓国における放送と著作権の現状についての強い関心が示された。

2011年度 第1回情報知財研究会

日 時 : 

2011年5月26日(木) 18:30~20:30

場 所 : 

東京大学先端研知的財産権大部門丸の内分室

発表者 : 

奥邨 弘司 氏(神奈川大学准教授)

テーマ : 

「クラウド・コンピューティングと著作権・序説~コンテンツビジネスへの影響を中心に~」

報告主旨: 

2011年度第1回研究会は、神奈川大学の奥邨弘司准教授をお招きして行われた。今回は、情報ネットワーク法学会著作権研究会との共同開催である。
奥邨先生の報告は、クラウドコンピューティングと著作権の関係を論じるものであり、クラウドとコンテンツ・オーナーシップに関する問題や、米国における Cablevision事件、4th Screen問題、MP3tunes事件といった関連事例、想定されるUserのUse Case と著作権の問題、わが国におけるまねきTV事件及びロクラクⅡ事件の最高裁判決などが紹介され、それぞれに検討が加えられた。
報告終了後は、研究会に参加された大学関係者、実務家など様々な立場の方々から活発な質疑がなされ、終了予定時刻を超過しての散会となった。

2010年度 第5回情報知財研究会

日 時 : 

2011年3月3日(木) 18:30~20:30

場 所 : 

東京大学先端研知的財産権大部門丸の内分室

発表者 : 

井上 理穂子 氏(国立情報学研究所)

テーマ : 

「米国連邦特別巡回区控訴裁判所の特許判例におけるAmicus Brief」

報告主旨: 

第5回研究会は国立情報学研究所の井上理穂子氏を講師にお招きして行われた。本研究会での議論は、米国のAmicus Curiae制度の成り立ち、Amicus Curiae研究、CAFC(連邦特別控訴裁判所)のこの20年間の特許判例に関するAmicus Briefの傾向及びAmicus Curiae制度の日本への導入の是非についてであった。
まず、Amicus Curiaeとは、「裁判所の友」という意味であり、当事者以外の第三者に事件の処理に有用な意見や資料を提出させ、裁判所の補助とするのが制度の主旨で ある。しかし米国では最高裁規則、CAFC規則のどちらにおいてもAmicus Curiaeに関しては、提出方法に関する規定しか存在しない。そこで『裁判による法創造と事実審理』 [原竹裕, 2000]をふまえ、Amicus Curiaeの特徴をまとめると次のようになる。

①専門的知識や当事者だけでは提出されない情報が提供される。
②社会利益を法形成に反映することができる。
③関連する実定法規定が完備されず、その権限が連邦及び州の裁判所の判断にゆだねられているために機能が明確でない。
④既判力が提出者であるAmiciには及ばず、リピート・プレイヤーとして同一ないし類似争点を含む訴訟に関与することが可能な結果提出書類であるAmicus Briefの数が増加し裁判所の負担が増える。

一般にAmicus Curiaeについて、情報提供としての役割を認めるLegal Model、裁判への影響力を認めないAttitudinal Model、利益団体の裁判所に対するロビー活動とみなすInterest Groupという三種のモデルがあると言われているが、Colleen v. Chienによる最高裁とCAFCへの最新のAmicus Curiae(特許事件)についての実証的アプローチによる研究では、事実を根拠に上記3種のモデルに代わってaffected groupsからの意見として中身より数と種類が影響力を持っているとするAffected Theoryと、技術的及び特殊なケースにおいてAmicus Briefが役立つとするInformation Theoryがあるとされている。
しかし上記研究に関して、井上氏はCAFCの特許事例のAmicus Briefに対しては、より統計的な分析が必要であると主張する。 というのも、約20年の歴史の中、最近5年でAmicus Briefの半数近くが提出されており、時間軸などの基準を用いてデータを整理する必要があり、またAmici同士のつながり、特に弁護士のネットワーク がAmicus Curiaeに及ぼす影響力も考慮する必要があるからである。さらに、米国の特許法においては、議会による立法よりも裁判所による判例の方が、より具体的 かつ比較的素早いという現状を考えれば、議会に対するロビーイングよりも効率的に法改正を進める手段となりうるという点も見逃せない考察対象であるとい う。
また、今後日本の裁判制度へのAmicus Curiae導入については、法形成型訴訟の形式に近い特許訴訟において、可能なのではないかとのことであった。

2010年度 第4回情報知財研究会

日 時 : 

2010年12月16日(木)18:30~20:30

場 所 : 

東京大学先端研知的財産権大部門丸の内分室
(住所:東京駅八重洲側新幹線日本橋口直結のサピアタワー8階)

発表者 : 

後藤 和子 氏(埼玉大学教授)

テーマ : 

「著作権制度における市場と公共基盤 - クリエイティブ産業における契約と産業組織に着目しての視点から」

報告主旨: 

第4回研究会は、埼玉大学の後藤和子教授を講師にお招きして行われた。後藤教授の問題意識は、現在の日本ではクリエイティブ産業界の著作権に関して産業構造と契約の果たす役割を鑑みた議論がなされていない、というものである。
まず、クリエイティブ産業とは「創造」と単調な労働すなわち「流通」との契約による結合であり、「創造」アクターと「流通」アクターへの収益配分は、便 益と費用のみならず法や市場、制度が複雑にからみあった相互作用によって決定される。そもそも創作へのインセンティブとは、二次市場の著作権収入が一次市 場に還流されることであり、クリエイティブ産業のビジネス・モデルの転換とはこの一次、二次市場の関係の転換を意味する。  
ここで、二次市場の著作権を弱めて公共性を高めて流通を促せば、結果的にアーティストの収入が増えるというモデルの非妥当性にふれつつ後藤教授は以下を指摘する。
現状のクリエイティブ産業の構造において、第一に、著作権の収益配分を決定するのは著作権そのものより主に契約や業界慣習であるが、「創造」サイドは契 約に関して問題点、改善の余地を多く感じている。第二に、リスクテイカーの存在が不可欠であることから「創造」に対する「流通」の優位性を考慮すべきであ る一方、「流通」にはゲートキーパー機能という重要な働きもある。
さらに情報の独占と共有という観点から、独占を促す特許権などハードローと共有性を高める契約などソフトローを用いるコモンズの主張を踏まえ、著作権にはハードローとソフトローの両面があるという。
以上より今後は創造へのインセンティブを確保しつつ、創造性を育むコモンズを拡大していく視点から研究が進めば著作権の二面性の解明が進むと結論づけて いる。すなわち、クリエイティブ産業における著作権制度の研究は法学におけるソフトロー研究と親和性が高いと思われるということである。

2010年度 第3回情報知財研究会

日 時 : 

9月21日(火)15時30分~18時00分

場 所 : 

経団連会館4階401ダイヤモンドルーム

発表者 : 

David Wood 弁護士(Gibson, Dunn & Crutcher法律事務所のブラッセル事務所筆頭パートナー)

テーマ : 

「検索エンジン及びネット広告における提携と競争法における課題」
*この研究会は、競争法研究協会が主催し、情報知財研究会とPRIP Tokyo(特定非営利活動法人知的財産研究推進機構)が共催した。

【出席者】

基調講演: 

パメラ・ジョーンズ・ハーバー 氏 (Fulbright & Jaworski L.L.P.弁護士、元US FTC委員)

モデレータ: 

玉井 克哉 氏(東京大学教授、PRIP理事)

パネリスト: 

上杉 秋則氏(一橋大学大学院 国際企業戦略研究科教授、元公正取引委員会事務総長)
斎藤 憲道 氏(同志社大学法学部教授、元パナソニック㈱法務本部顧問)
滝川 敏明 氏(関西大学大学院法務研究科教授)
多田 敏明 氏(日比谷総合法律事務所弁護士)
松下 満雄 氏(東京大学名誉教授、弁護士)

基調講演(パメラ・ジョーンズ・ハーバー)

1.総論

独占禁止法における市場画定においては、形式的アプローチだけでなく、機能的なアプローチが必要である。2008年の米国におけるYahoo Inc.(以下「YI」)とGoogle(「G」)の事例を元に消費者保護の視点からの機能的な市場のアプローチを行う。

2.2つの市場~「データ市場」と「プライバシー市場」

機能的なアプローチをすれば、以下の市場を観念できる。

(1)データ市場

インターネットユーザーのインターネット利用データの持つ価値が増大している。
・インターネット技術がWeb2.0の時代に入り、双方向の情報利用が進む中、ますます、インターネットユーザーの利用データが重要なものとなっている。
・ユーザーからの無償のデータ提供が、経済的価値を持ち、取引の対象となっている。
・ここではネットワーク効果が働き、ある企業の市場支配は有用性を生む一方で、弊害がそれを上回る可能性がある。
・インタレスト広告は、ユーザーデータが価値を持つ好例だが、ユーザーである消費者は、自己のデータが利用されていることを認識していない。
・FTCのGによるダブルクリック社の買収事案において、私は、単なる製品市場という狭いカテゴリーに限定すべきではなく、データ市場という機能的な市場アプローチにより、Gがユーザーデータを取得することで、市場支配力を獲得・維持するとして、これに反対した。
・ネットワーク効果が働くため、一旦市場支配力が獲得されてしまうと、同等のデータへのアクセスがない限り、第三者は市場から排除されてしまう。
・独禁法の規制当局の判断枠組みを与え、調査の範囲を決定するために、初期の市場画定において、データ市場を考えることは有用である。

(2)プライバシー市場

従来は、消費者保護の観点から、プライバシーを保護すべきという視点で扱われていたが、現在では、プライバシーの保護自体も競争の一要素となってきている。

3.2008年のYI-Gの提携

  • (1)2008年4月に米国において、YIとGは、シンジケーションを含め、YIが2つ以上の検索クエリを併せた場合等YIの検索連動型広告が不足する場 合に、Gの広告の提供を受ける提携計画を発表した。GからYIに提供される広告は、YIの広告の約3%程度とされていたが、当時のYIとGのシェアを併せ れば、検索連動型広告市場とシンジケーション市場において、それぞれ、90%、95%のシェアを有していた。
  • (2)この提携は、有効に成立すれば、Gが90%を超えるシェアを有することを可能にするものであり、大きなネットワーク効果を生じさせうるものであった。
  • (3)5月初めには、司法省は、競争上回復しえない損害が生じる恐れがあるとして、調査を始めた。
  • (4)提携の効果としては、当初2.5億ドルから4.5億ドルの収益をもたらすもので、これが後に8億ドルに拡大するとの見方もあり、しかも10年間継続する可能性があった。この収益は広告主に対する更なる負担を意味していた。
  • (5)プライバシーの観点からも問題視され、司法委員会も調査を行った。GがYIのデータも取得することになればプライバシーは保護されない虞があった。
  • (6)この提携は、Customerの選択肢を制限し、広告主の広告費負担によりYI/Gの収益を増加させ、プライバシー保護の点から問題のある提携で あった。また、広告単価についても、当時Gの広告単価はYIに比べ135%高い水準にあったが、この提携により122%程度増加するとの試算もあった。
  • (7)司法省はこれを問題視し、提携を実行するのであれば、正式な法的アクションを取る旨をYI及びGに伝達し、そのアクションの直前に提携計画は撤回さ れた。司法省の判断の背景には、上記の弊害により良好な競争関係が害され、長期的には、検索連動型広告における投資のインセンティブがなくなり、YIが競 争者から協調者になり、シャーマン法1条及び2条に違反するとの判断があった。

4.2008年のYI-Gの提携における市場

  • (1)上記のYI-Gの提携においても、プライバシーは市場の要素と見るべきである。独占企業が誕生してしまえば、最早プライバシーの保護における競争の 必要性がなくなり、プライバシー保護のための投資のインセンティブはなくなる。さらに、プライバシー保護は技術革新市場とも密接な相関を有している。
  • (2)データ市場の面においても、ユーザーデータが結合され、より価値のあるデータが生成されてしまえば、最早ネットワーク効果により、第三者は排除されてしまう。しかし、これを誰が監視し、実効性を確保するかについては、大きな問題がある。

5.まとめ

Web2.0の時代に入り、データ量の持つ価値は増大しており、データ市場の要素を市場画定に取り入れる必要がある。また、プライバシーベースの市場画定も取り入れる必要がある。

パネルディスカッション

1.前提:検索エンジンと検索連動型広告について(多田先生)

前提事項として、多田先生から、検索エンジンと検索連動型広告の仕組みについて、説明があった(「検索連動型広告の流れ」参照)。説明の中で、一般的説明に加え、以下の点への言及があった。

  • ①広告主にとっては、ユーザーの関心により関連性が決定されるという検索連動型広告の特性により、検索連動型広告が従来のターゲットを超えた販路拡大ツールとして機能しうること
  • ②広告主にとっては、検索エンジン自体のアクセス数、ユーザーの拡大が重要であり、使われる検索エンジンであるほど広告の意味がある。検索エンジン自体に ネットワーク効果と自己成長機能(使われる検索エンジンほどより改善されていく)があるため、検索エンジンのシェアが上がるほど、利用者も増え、特定の検 索エンジン・検索連動型プラットフォームが利用され、第三者の競争者は排除されることになる。その結果、独占状態となれば、投資研究のインセンティブが損 なわれることになる。
  • ③シンジケーションネットワークにおいても同様のことが起きる。
2.パネルディスカッション
(1)市場画定について

松 下: 

申し上げたい点は2点。1つは、公取は検索エンジンの取引はないとしているが、ライセンスや売買の対象になるものとして検索エンジンにも「検索エン ジン市場」というものが存在するのではないかという点。技術革新市場の応用ができるのではないか。もう一つは、検索エンジンというものは使えば使う程、情 報が蓄積されていき、これによって参入障壁が生じるという点。ただ、情報が蓄積されてより良いものとなっていくこと自体は便益を生み出すものであり、独占 による市場の閉鎖性と技術革新における影響とのバランスを考える必要がある。。今回のYJとGのケースについては、将来のR&Dに対するインパク トがあるのではないかと考えている。以上とは別に、検索連動型プラットフォームについては、価格協調が起こらないかという問題がある。

滝 川: 

本件は単純に考えるべき。独禁法上、市場画定というものは製品・サービスと地理的範囲という観点から市場画定するのが通常であり、YJとGは検索連 動型広告サービスを提供しているのだから、本件では検索連動型広告配信システム市場が問題になる。検索サービスは無償で提供しているが、検索連動型広告配 信システムは、検索エンジンの影響を受けるものであり、両者は密接に関連していると考えられるため、検索エンジン自体も市場として含めて捉える必要がある のではないか。

上 杉: 

1点だけまず明確にしておきたい点がある。公取実務で当事者にクリアランスを出す制度は、企業結合に係る事前相談とそれ以外の事前相談制度に基づく 正式な事前相談の2つしかない。その場合、相当な調査の後、正式な回答は文書でなされ、かかる文書による回答が撤回されない限り、問題ないと回答した事案 については措置をとれないというクリアランス効果がある。しかし、本件はこのような正式な事前相談への回答ではなく、当事者の主張を前提としたあくまで一 般相談に対する回答に過ぎない。

本件では、検索連動型広告市場、シンジケーション市場、その他の個々のサービス市場を考慮することになろう。

(2)本件の提携の影響について

玉 井: 

2008年の米国の事案と異なり、本件ではプラットフォームの共通化も行われている。
齋藤:特に、現在、検索エンジンが持つ経営機能の一つとして、マーケティングやコンサルティング機能があり、これが今後重要となる。検索エンジンを通し て、市場調査と同様の機能が期待されている。その分野において、独占企業が誕生し、比較のための選択肢がなくなる影響は大きい。検索連動型広告を形式的に とらえるのでなく、そのような検索連動型広告の果たすコンサルティング機能も含めた影響分析が必要である。技術革新の点では、日本語解析の技術革新が阻害 されることを懸念している。

松 下: 

本件は、いわゆる製造を一緒にして、ただ販売を別々にする事例と似ている。しかし、検索エンジンと検索プラットフォームを共通化し、アルゴリズムを 共有する点は大きく異なる。広告順位は入札価格とクオリティスコアで決定されるとのことで、ここら辺の話がブラックボックスで、共通化の程度も分からない のだが、クオリティスコアについての情報が共有化され、ブラックボックスが共通化されることで、落札条件が同一となるのであれば問題なのではないか。
また、両社(YJとG社)にファイアーウォールを設けるとしても、具体的にどうやってやるのか、誰が管理するのか、誰がモニターするのか(第三者公的機関が行うのか)という点も問題であり、重要な点である。

滝 川: 

本件では、前述のとおり、検索エンジン市場と検索連動型広告配信システム市場の2つがある。製造・販売という話があったが、製造については、本件市 場については製造という行為自体が存在しない。イノベーションとR&Dが市場に直結している。本件提携によってこれらにおける競争に制限がかかる ようであれば、価格の問題が生じなくとも、やはり独禁法上問題があると考えるべきである。
また、販売(マーケティング)についても、価格が異なり、顧客データの共通化しないから良い、というものではない。これだけ高度寡占市場でしかも重要部分 を共通化すれば、産業組織論の観点からみれば、協調した方が得するのは明らかで、価格が協調的になるのは当然。このような状態が生じる場合は、価格は異な り、たとえカルテルが成立していなくとも、独禁法上違法と考えるべき。

上 杉: 

本件はあくまで競争者間の部分的な提携である。従って、通常は、提携によりコストの重要部分が共通化されたと言えるか、がポイントとなる。提携部分のコストに占める割合より、その他の提携外部分のコストの方が大きいのであれば問題ない。例えば、車の競争でも、エンジンは重要な要素なのでこれが共通化されるのであれば問題だが、ネジを共同購入するだけであれば問題ない。もっとも、競争の核が何であるかは重要であり、コストの割合だけでなく、その共通化が将来のイノベーションに与える影響を考えることも重要である。
多田:提携による影響の評価は難しいが、検索エンジンの規模の利益の極度の好循環作用による競争者排除効果は検討する必要がある。研究開発意欲については、知財ガイドラインを参照しても公取が重視していることは明らかであり、その著しい減退が認められるのであれば、問題。
YJが少なくとも広告においてはGの競争者であったことは明らかで、提携後に言っているとおり本当にどこまで競争するのか(できるのか)、逆にどこまでを共通化するのか、現時点では全く見えない。

(3)今後どうするべきか~問題解消措置について

多 田: 

検索情報の共有化禁止等の協調性の排除について継続的モニタリングが必要であるが、実効性の確保と担保措置が必要である。企業結合規制のような問題解消措置を検討していくべきではないか。

松 下: 

競争確保の条件については2点ある。1つは、ビッドのオファーが両社で均等になるのではないかという点。入札価格以外のクオリティスコアが重要であると考 えており、これを共通化すればオファーが均等になるのではないか。従って、一定限度でクオリティスコアにかかる情報を開示すべきではないか。
2点目は、イノベーションに対する影響。つまり、「市場のダイナミズム」というものをどのようにみるかという点。従来から、ある市場で独占が生じたとして も、これに代わるものがイノベーションによって覆されるということがあり、本件でも、従来の検索市場では閉鎖性が生じたとしても、ツイッターや Facebook等検索の仕方自体が徐々に変化しているという事情も考慮する必要がある。違う形で独占が崩れることもあり、多面的に市場を見る必要があ る。

滝 川: 

効率上のメリットは、独禁法上考慮しなければならない要素である。本提携でYJは、他に選択肢がなく、最も効率性がある相手と組んだと主張しているが、こ れは違うと思う。つまり、YIはMSのBingと一緒になることでより良い検索エンジンとなっているはずであり、YJがそのまま使い続けるという選択肢も あったはず。特に、YJは今まで日本で圧倒的なシェアを有していたのであり、あえて変える必要はなかったのではないか。本件はM&Aに近いもの で、実際に本件提携によって競争制限的な状態が生じるのであれば問題解消措置の問題ではなく提携自体を止めるべきである。公取は、事前相談の際に、広告主 や競争者であるMS等の話ももっと聞くべきだった。

多 田: 

本件については、非公開の事前相談という限定はあったとしても、情報交換の程度、カスタマイズの形、当事会社以外の見方について、公取はもっと深い調査を するべきだった。本件では既に当事者自らが提携の事実を公開したのだから、公取は、より積極的に関係者から事情聴取等をするべき。

齋 藤: 

公取は定例会見で今後監視していくと発言しているが何を監視していくのか、予見可能性という観点からも明らかにして欲しい。

上 杉: 

本件は、3条前段の問題であるが、支配力だけで違反になるケースではなく、行為自体が良いものか悪いものかを事前に判断しかねるものである。当該行為に よって被害を被った、または被りそうな広告主や競争者が市場調査等してデータを集め、公取に申告すべきものである。公取は、監視していくと発言している が、これはつまりWatchするという意味で、要するに問題が明らかにならない限りは、自らは何もしないという意味である。日常的なControlという 意味での監視であれば、そもそも「問題ない」とは回答しない。

多 田: 

問題があれば公取に持ち込め、というのはその通りかもしれないが、外から見ると、一般的な相談に対する回答とはいえ、公取として、一旦「問題がない」と言ってしまったことが、公取が本来必要なアクションを取ることの心理的障害になっているのではないか、を懸念している。

松 下: 

公取の事務総長会見を読む限り、公取としては、「今のところ」は問題がない、とおうことだろう。

滝 川: 

本件は世界でも珍しく検索市場に競争が存在していた日本で発生した重要な事件で、世界への影響も大きい。欧米の規制当局は広い意味での企業結合規制強化の姿勢を示している。公取には、広い意味での企業結合にあたる本件のような事案にもっと人員コストを投入して欲しい。

齋 藤: 

公取には、このような新しい産業分野について、自ら研究テーマに掲げる等、積極的に対応してもらいたい。

2010年度 第2回情報知財研究会

日 時 : 

6月24日(金)18時30分~21時00分

場 所 : 

東京大学先端研知的財産権大部門丸の内分室

講 師 : 

塩澤 一洋 氏(成蹊大学教授)

テーマ : 

「デジタル環境における著作権法の存在意義」

概 要 : 

第2回研究会は成蹊大学の塩澤一洋教授をお招きして開催された。ご報告は「デジタル環境における著作権法の存在意義」というテーマで、著作物の公表に着目した著作権法制について、塩澤教授の論文(「公表支援のフレームワークとしての著作権法の意義」成蹊法学第68.69合併号、235-264頁)をもとに進められた。
まず、従来の多数説である創作へのインセンティブ論に対する違和感が提起された。すなわち、本来著作権法が存在しない場合でも創作する者は創作するのであり、著作権法が創作のインセンティブを与えているのではない、というのが塩澤教授の主張である。
著作権法の目的は文化的所産の多様性の促進・尊重にある。その目的のためには、創作から「使用・利用」されるまでの間に公表することが不可欠となる。そ のことから、「公表支援のフレームワーク」としての著作権法が提唱された。著作物を公表することで、多くの人に著作物が行き渡り、更なる創作につながるの であり、著作権法の目的である文化の発展につながるのである。そこで、国民のすべてが創作者になり、容易に公表することが可能なデジタル環境においては、 公表を躊躇させないような公表支援のフレームワークとしての著作権法を検討する必要があるというわけである。
今回のご報告では、著作権法の存在意義が、著作権法の目的や特許法との対比・関連性、憲法との関わりといった視点で説明され、デジタル社会における円滑な著作物流通の促進を考えるうえで示唆に富む内容となった。
塩澤教授の熱のこもったご報告の後に行われた参加者との質疑応答も次第に白熱し、終了予定時刻を大幅に超過しての散会となった。

2010年度 第1回情報知財研究会

日 時 : 

4月16日(金)18時30分~20時30分

場 所 : 

東京大学先端研知的財産権大部門丸の内分室

講 師 : 

玉井 克哉 氏(東京大学教授)

テーマ : 

「著作権法のリフォーム論について」


概 要 : 

本年度第1回目の研究会は、デジタル時代における著作権法をめぐる議論をテーマとして行われた。これに関して、最近では情報・ネットワーク関係者だけでなく法律専門家の間からも議論が出てきている状況をふまえ、本研究会の幹事でもある東京大学の玉井克第5回研究会哉教授が「著作権法の『リフォーム』論議をめぐって」というテーマで話題を提供した。  ここで「リフォーム」と呼んでいるものは、「ネットワーク化の進展にともない、著作権法を改正しよう」という動きのことである。取引費用を縮小して著作物の流通を促進するのが、その目的だといえる。このような議論の代表例として1)「ネット法」、2)フェアユース、3)著作権法制の複線化が挙げられる。そもそも著作権法の基本原理として、19世紀末につくられたベルヌ条約では、著作物完成の瞬間、自動的にさまざまな権利が発生するという「無方式主義」がとられている。これは、「円滑な流通」「積極的な利用」を想定したものではなく、今日の状況には合わなくなってきている。

リフォーム論の一つである「ネット法」は、デジタル・コンテンツの流通促進のために「ネット権」なるものを創出して権利処理を簡素化しようとしたものであるが、法律論としても政策論としても問題点を多く抱えている。また、米国の著作権法などに見られるフェアユース規定を日本に導入しようとするリフォーム論もあるが、権利者の利益が不当に侵害されるおそれのあることなどから、米国に倣うのは当を得ないと考えられる。 今後の有力候補としては、著作権法制の複線化が挙げられる。これは、従来の著作権とネット上の権利を分けて取り扱い、後者をさらに「自由利用型コピライト」と「課金保障型コピライト」に分けて権利処理を行うという構想である。現行の著作権法の大枠を変える必要はなく、権利者の志向にマッチした仕組みを整えて自発的な移行を促すというのが基本的な発想である。著作権法制の複線化が妥当であるとして、立法的対応が何について必要なのか、技術革新によって解決すべき課題は何かなど期待については、今後さらなる議論が必要である。

2009年度 第5回情報知財研究会

日 時 : 

2010年3月23日(火)18時30分~20時30分

場 所 : 

東京大学先端科学技術研究センター知的財産権大部門丸の内分室

報 告 : 

曽根原 登 氏(国立情報学研究所教授)

テーマ : 

「知の循環の在り方 学術情報・サービス連携基盤の動向」

概 要 : 

第5回研究会は、国立情報学研究所の曽根原登先生を講師にお招きして開催された。
今回のご講演は「知の循環の在り方――学術情報・サービス連携基盤の動向――」というテーマで、①情報爆発からサービス爆発へと移行しつつある次世代イン ターネットの状況、②学術認証フェデレーションの動向、③学術を例とした「知の循環」の在り方、について話題提供がなされた。
まず俎上にのせられたのが、次世代インターネットにおいて重要となる情報の信頼性とリスクの問題である。ここでは、利便性と信用度に対する不安・不信が混 在している電子商取引を例に挙げ、電子商取引サイトの利益と安全性を両立させるような社会システム設計の科学的方法論への挑戦例として電子商取引サイトの ‘危うさ’推定システムの実装が紹介された。
ご講演中、最も中心的なテーマとなっていたのが「学術認証フェデレーション」という、定められた規程(ポリシー)を信頼しあうことで相互に認証連携を実現 し、学術リソースを利用・提供する機関や組織から構成された連合体の動向である。この学術認証フェデレーションは、サービスが分断されている現況をふま え、ID空間とサービス空間を融合させることで、同一IDで複数のサービスが利用できるようにすることをめざすものである。ここでは、フェデレーションの システム構成の実態にふれ、これに参加する主体(サービスを利用する大学、サービスを提供する大学その他、フェデレーション)のメリットと利用例が紹介さ れた。
このフェデレーションの世界における動向を見た場合、日本国内のサービスを展開する必要性のあることが最後の論点として挙げられた。ここで紹介されたの が、国立情報学研究所が提起している「情報サービス連携コンソーシアム(仮称)」である。これは、学術認証フェデレーションの仕組みを活用し、産学連携共 同研究開発を促進するようなネットワーク型の環境を構築することを目的とするものであり、今後は技術開発や研究教育のための持続的運用モデル開発、アプリ ケーションサービス技術やコンテンツ技術の開発とビジネス展開などを検討内容として掲げている。
講演後には、大学関係者、企業関係者などさまざまな立場の参加者から、日本国内の「知の循環」に関する問題点が出され、これに取り組んでいくための技術的・教育的・社会的課題に関する議論が熱く交わされた。

2009年度 第4回情報知財研究会

日 時 : 

2010年1月7日(木)18:30~20:30

場 所 : 

東京大学先端科学技術研究センター知的財産権大部門丸の内分室 

報 告 : 

林 紘一郎 氏(情報セキュリティ大学院大学学長)

テーマ : 

「グーグル・ブックスの意味するもの」

概 要 : 

第4回情報知財研究会は、情報セキュリティ大学院大学の林紘一郎学長を講師にお招きし、約40人が出席して開催された。今回のテーマはグーグル・ブックス であり、出版物のネット配信について、世界的視野からみた現状と問題点、その潮流の中での日本の対応が主な論点であった。出版物のデジタル化は時代の流れ から当然のことであるが、そこには著作権侵害の問題、ビジネスという視点からの競争と独占禁止法の問題、検索・結果表示の偏りと出版物の価値との関連性の 問題、国際標準化の問題など、さまざまな問題が山積していることが指摘された。
特に題材として大きく取り上げられたのが、2004年にグーグルが発表した「図書館プロジェクト」と、それに対して作家協会が提訴した米国の「ブック検索 訴訟」である。この訴訟は、米国政府によって修正和解案が提出され現在も進行中であるが、これに呼応するように世界各地で出版物のデジタル化に関する議論 が勃発している。このような情勢をふまえたうえで、情報社会のネットワーキングの喫緊の課題としてグローバル・スタンダードの構築が最重要であるという主 張で、この講演はしめくくられた。
講演後のディスカッションでは、参加者の専門や立場が多様であったこともあり、グーグル・ブックスの独占的ビジネスやその影響、出版物の将来的あり方等に 関して異なった視点から意見が多数出され、長時間にわたる活発な議論が繰り広げられた。林先生の講演とその後のディスカッションをとおして、今回扱われた 出版物のデジタル化は利害関係が複雑に絡み合う情報化社会の問題の代表であり、その解決は大きな社会的要請であるが、そのためにはビジネス、法律、学問、 出版等さまざまな立場の専門家が議論していく必要のあることが改めて浮き彫りとなった。

2009年度 第3回情報知財研究会

日 時 : 

平成21年11月5日(木)18:30~20:30

場 所 : 

東京大学先端科学技術研究センター知的財産権大部門丸の内分室

報 告 : 

松前 恵環 氏(東京大学大学院情報学環 助教)

テーマ : 

「位置情報技術とプライバシー」

概 要 : 

我々は今日、携帯電話などから“GPS”を通じて位置情報を送信し、また、公道において“監視カメラ”で常時撮影され、能動的あるいは受動的に、見知らぬ 誰かに位置情報を提供している。このように、個人のプライバシーを取り巻く環境は一変しつつある。しかも、近年の情報技術の発展により、インターネットと いう仮想空間を介して集積された位置情報が現実空間の他の情報を組み合わされ利用される、といったユビキタスネット社会の到来が現実味を帯びてきた。
このような現状にかんがみ、このたびの研究会においては、“情報”という観点から“プライバシー”論に新たな視座を提供しようと試みられている松前恵環氏 から、「位置情報技術とプライバシー」というテーマにつき、日米のプライバシーに関する条文・判例法理を踏まえつつ、犯罪捜査目的のGPS利用など、具体 例をまじえながら説明していただいた。
特に、人間の目視による監視によって対象物の位置を①不正確さを残しつつ②断片的に③事後的に把握していたのとは異なり、対象物の位置を①正確に②継続的 にかつ③リアルタイムに把握する、というGPSの特性〔追跡(トラッキング)〕を踏まえ、GPSを通じた位置情報については、たとえそれが公的な場所にお ける位置情報であっても、プライバシーの保護に対する合理的な期待が存在しうることに触れられた。そして、第一に、潜在的にセンシティブな位置情報を今後 どのように取り扱うべきか、第二に、公共の場におけるプライバシーについてこれまで以上に精緻に検討すべき必要があるのではないか、第三に、位置情報の 「有用性」とプライバシー保護とのバランスをとる必要があるのではないか、また、どのようなバランスをとるべきか、という3点を議論する必要がある、と問 題提起された。
報告終了後は、研究会ご参加の様々な立場の方々を交えた、活発な質疑応答がなされ、終了予定時刻を超過しての散会となった。

2009年度 第2回情報知財研究会

日 時 : 

平成21年7月16日(木)18:30~20:30

場 所 : 

東京大学先端科学技術研究センター知的財産権大部門丸の内分室

報 告 : 

楠 正憲 氏(マイクロソフト㈱ 法務・政策企画統括本部技術標準部部長)

テーマ : 

「オープン・イノベーションと相互運用性―マイクロソフトの取り組みと課題」

概 要 : 

1970年代からの情報通信技術の変遷について、IP(Internet Protocol)以前の世界と、その後のIPによる事業構造の転換や、IPによるオープン化の恩恵について解説していただくとともに、マイクロソフトの 標準化戦略、相互運用性の基盤強化について具体例をまじえながら詳細に説明していただいた。
報告終了後は、活発な質疑応答がなされ、終了予定時刻を一時間ほどオーバーしての散会となった。

2009年度 第1回情報知財研究会

日 時 : 

平成21年5月27日(水)18:30~20:30

場 所 : 

東京大学先端科学技術研究センター知的財産権大部門丸の内分室

報 告 : 

石井 亮平氏(日本放送協会 著作権・契約部)

テーマ : 

「NHKオンデマンドをめぐる権利確保の実際と課題」

概 要 : 

NHKで、著作権に関する契約実務を担当されている石井亮平氏を講師にお招きして、昨年12月に開始されたNHKオンデマンド(NHKが放送した番組の ネット配信サービス)のサービス内容について、実際にオンラインで画面を映し出しながら具体的に説明していただいた。さらに、放送番組に関係する権利者の 権利内容や、放送番組を活用するための契約(許諾)類型についても詳細に解説していただいた。
報告終了後、参加者からの多くの質問が寄せられ、講師との間で活発な意見交換が行われた。

2008年度 第5回情報知財研究会

日 時 : 

平成21年7月16日(木)18:30~20:30

場 所 : 

東京大学先端科学技術研究センター知的財産権大部門丸の内分室

報 告 : 

菅原 瑞夫氏(社団法人日本音楽著作権協会 常務理事)

テーマ : 

「情報通信技術の進展と音楽著作権」

概 要 : 

デジタル化・ネットワーク化された音楽著作物の流通動向について説明がなされた後、音楽著作物に係わる権利処理実務の現状について詳細な解説が行われた。
また、著作物の新たな流通に際しての今後の課題として、権利情報の整備・共有化や、許諾・分配システムの整備といった具体策推進の重要性が指摘された。
報告終了後、参加者からの多くの質問が寄せられ、活発な討論が展開された。

2008年度 第4回情報知財研究会

日 時 : 

2009年2月6日(金)13:00~18:10

場 所 : 

国際文化会館(東京都港区六本木5-11-16)

報 告 : 

楠 正憲 氏(マイクロソフト㈱ 法務・政策企画統括本部技術標準部部長)

テーマ : 

「ICT社会の近未来 ~産官学の対話と協調~」

概 要 : 

電子商取引、電子政府、IT医療・IT教育といった、社会における情報媒体が、紙媒体から電子媒体へと急速に移りつつある現在、社会的弱者の増加、著作権 問題などといった、過去には想像しえなかった多くの問題が、従来の法整備では追いつかない速さでICT社会をとりまきつつある。今回の研究会では、これら の問題を含めICTがもたらす未来社会に関して、「対話と協調」をテーマとして実施された。産学官を代表する国内の講演者及びパネリストに加え、ICT 社会の構築に急速に取り組んできた海外(エストニア・英国)からも、直接及びオンライン参加形式による意見交換を実施した。
セッション1では、ICT社会に求められる法制度と国家戦略に関して、日本とエストニアを比較しながら、現状報告と求められる解決策に関して意見の交換がなされた。セッション2では、今後社会に求められるICT先端技術に関して、国際的な視点から議論が展開された。
今回の研究会では終始、ICT社会の未来像に関して国内外で多くの共通点が見られ、改めて、ICT社会の発展には国際的な連携及び協調が非常に重要である事が確認された。

2008年度 第3回情報知財研究会

日 時 : 

平成21年2月5日(木)18:00~20:00

場 所 : 

東京大学先端科学技術研究センター知的財産権大部門丸の内分室

報 告 : 

境 真良氏(早稲田大学大学院国際情報通信研究科客員准教授)

テーマ : 

「コンテンツ産業政策と知財政策の交差点」

報告主旨: 

コンテンツ産業の構造に関する話(三層構造論)にはじまり、今後の知財政策(主に著作権分野)のあり方とその限界、コンテンツ産業政策の今後の可能性といったテーマについて解説がなされた後、参加者との間で活発なディスカッションが行われた。

2008年度 第2回情報知財研究会

日 時 : 

平成20年10月1日(水)19:00~21:00

場 所 : 

六本木アカデミーヒルズ49・カンファレンスルーム1+2

報 告 : 

玉井 克哉 氏(東京大学教授)

テーマ : 

「合衆国最高裁と連邦巡回区控訴裁判所――アメリカ特許法の最近の発展をめぐって」

報告主旨: 

アメリカの裁判所組織の現状および裁判官の日常の仕事ぶりといった基本的な解説からはじまり、コンピュータソフトなど情報通信分野に関連する最近のアメリカ特許法の判例が紹介され、さらに特許法の保護範囲の変動についての解説がなされた。

2008年度 第1回情報知財研究会

日 時 : 

平成20年5月20日(火)16:00~18:00

場 所 : 

東京大学先端科学技術研究センター知的財産権大部門丸の内分室

報 告 : 

井上 理穂子(国立情報学研究所)

テーマ : 

「デジタルネットワーク社会における著作物の教育利用に関する課題の検討」

概 要 : 

著作権法第35条は、特定の要件を満たせば、著作権者に無許諾・無料で他人の著作物を教育利用できる旨を規定 する。従来の教室におけるface to faceの紙媒体を利用した教育においては、第35条の規定で問題は生じていなかった。しかし、情報技術の発展により、教材はデジタル化され、教育方法自 体もネットワークを介した形態となり、従来の第35条の想定の範囲外の事態が生じ、早急に対応が必要な課題となっている。 本発表では、この課題について具体的に述べ、必要な法改正、政策について検討をした。